616 阿鼻叫喚 ページ9
「あ、もうすぐ出口みたいですね」
太陽が示した先には、『出口こちら』というおどろおどろしいフォントの赤い文字があった。
私はそっと息をつく。かなり長い道のりに感じられた。
「ほんとだ。みんな待ってるかな」
安心感から、自然と足が速くなる。暖簾の向こうに見える昼の光が恋しい。
「あの、落としましたよ……」
ふと、背後からそう呼びかけられた。
差し出された色白の手の中にあるのは私の折り畳み財布だった。ポケットから落ちてしまったのだろう。
「ああ、ありがとう太陽──」
顔を上げ、私はそのままの姿勢で硬直した。
財布からゆっくりと視線を上げていく。床につくほどの長い黒髪。その間から除く、紫のひび割れた唇。真っ白の着物。
……貞子。
「──ぎゃああああああ！？」
私は無様にひっくり返って尻餅をついてから、這うようにして出口へと駆け出した。
頭から冷水と熱湯を同時にぶっかけられたような心地だった。右も左も分からぬまま走り、足をもつれさせて転ぶ。
「A！」
すぐそばのベンチで待っていたらしいみんなが、私の周りに集まってきた。その心配そうな表情を見て、私はようやく平静を取り戻した。
「ジェットコースター乗ってた時とは比べ物にならないくらいの叫びやんね」
「そんなに怖かった？」
黄名子とフェイに言われ、私は急いで立ち上がって服についた砂を払う。
──こんなに恥ずかしいことってない。誰かこの地面に今すぐ掘削機で穴を開けてくれ。丸一日ほどそこで日の目を見ないで暮らしたい。
「大丈夫ですかAさん？ さっきのスタッフさんも心配してましたよ」
やや遅れて出てきた太陽の手には私の財布がある。
私は顔を真っ赤にして平謝りしながら、太陽から財布を受け取った。
「A、テレビの心霊番組もずっと半目になりながらみてた」
「クロエ余計なこと言わないで！！」
私が怒鳴ると、クロエは肩を竦めて剣城の後ろに隠れたのだった。
＊
そこからはまだ乗っていないアトラクションに行ったり、みんなへのお土産を買ったりした。
ほとんど全ての乗り物を制覇したんじゃないだろうか。私たちは1DAYフリーパスの持つ権限を最大限に活用した。
そうして、陽が傾きかけた頃。
一番最後に、このテーマパークの目玉でもある観覧車に乗ることにした。頂上は100m越えで、市が一望できるという。私たちの前には奇しくも、順番待ちをしている人はいなかった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
