615 ちょっとした茶目っ気 ページ8
お化け屋敷の中でこんなことを聞かれるとは思っていなかったのだろう、太陽は目をぱちくりとさせた。
私は胸の前で慌てて手を振る。
「あ、違う。妬みとかじゃないの。ただ龍の化身が流れ込んでくるってどんなもんなのかなって気になって……」
「わかってますよ。そうだな、あの時は僕も無我夢中だったから──」
太陽は宙に死線を彷徨わせて記憶の糸を辿りながら、言葉を紡いだ。
「ああいう感覚は、人生で二度味わうことはないでしょうね。胸の底から力が沸き起こってきて……先を見る孔明の力を手に入れたからなのか、それまで気付かなかったようなことが、フィールドの中に浮かんで見えたんです」
私も後漢での戦いを思い返す。ミキシマックスした太陽は奇門遁甲の陣を編み出し、チームの危機を救った。
どうして私が選ばれなかったのだろう──という澱んだ思いは、もう私の中にはない。ミキシマックスを成功させたのは太陽の強い思いがあってこそだった。私はそれに尊敬を覚えている。
「凄かった。あれでチームの士気が格段に上がってたから」
「ありがとうございます──でも凄いといえば、Aさんだって」
ふと自分の名前を出され、今度は私が目を瞬かせた。
「昨日の試合、鳥肌が立ちましたよ。化身が進化した瞬間を見たのは、天馬のに続いて二度目でしたけど……なんていうか、神々しいものがありました。Aさんとクロエ、二人の絆の強さがそのまま具現化したように見えて」
化身の進化。覇者から覇王へ。血が静かに滾るような感覚が、その時はしていた。
あの時得点を決められたのは、後ろにみんながいて私を支えてくれたからだ。信じてくれたから、勝てた。
「そんな、私はただ──」
その瞬間。
背後の方で何かが倒れるような大きな物音がした。「ひっ」と喉の奥で悲鳴を上げてから、それがギミックによるものだと気が付く。
心臓が早鐘を打っている。ビビリだと思われただろうか。
「繋ぎます？ 手」
「へ？」
目の前に差し出された白い手。私はその手と太陽の顔を見比べる。
ぽかんと口を開ける私の表情がおかしかったのか、太陽は差し出した手をひらひらと振って笑みを零した。
「冗談ですよ。神童さんに怒られちゃいますからね」
「あ、いや、それは、うん……そうだね」
私は頷き、太陽の横顔を盗み見る。
──大人っぽいと思ってたけど、割とお茶目な部分もあるようだった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
