614 恐怖の館 ページ7
「あ、うちあれ行ってみたい！」
レストランで腹ごしらえをした後。黄名子がそう言って指さしたのはお化け屋敷だった。
私は一瞬身を硬くする。絶対に行きたくないというほどではないが、やはりそのおどろおどろしい建物を見ると身体が竦んでしまう。
「二人一組で入るシステムみたいだね」
「じゃあ、これもくじで決めようか」
天馬の言葉に、フェイが腕時計を操作する。
私はやめとこうかな、と言い出すタイミングを完全に失ってしまった。でも一人だけ外で待っているというのも退屈だし、別にいいか。それに遊園地のお化け屋敷だから、死ぬほど怖いということもないだろう。
私は雨宮とペアになった。
「よろしくお願いします、Aさん」
「うん、よろしく」
私たちは列の最後尾に並んだ。最初に天馬とクロエのペアが、連れ立って中に入っていく。
数分ほど間を置きながら、次のペアが案内されていく。最後に私と雨宮が暖簾をくぐった。
足元にある橙色の照明が、かろうじて順路を示す看板を照らしている。ヒュードロドロ、というテンプレ化されたBGMさえも、どこか恐ろしく感じられた。
「結構本格的ですね」
「うん……そうだね」
柵の向こう、白い着物を着た女の人が井戸端でお皿の数を数えている。私はできるだけそちらを見ないようにして歩を進めた。
あまり会話のないまま、私たちは通路を進む。そういえば雨宮と個人的に話をしたことはほとんどなかった。
この機会に何か喋ってみようか。というか何でもいいから気を紛らわせないと、私の心臓が持ちそうにない。そう思って口を開く。
「あの、たいよ──雨宮はさ」
前を進む雨宮が振り向き、きょとんとした顔で私を見た。そうしてちょっと口角を上げて微笑む。
「みんなみたいに、太陽って呼んでくれていいのに」
「あーいや、あんまり話したことないのに下の名前で呼ぶの、なんか馴れ馴れしいかなって」
「同じチームの仲間じゃないですか。そんなこと気にしなくていいんですよ」
「そっか。じゃあお言葉に甘えて」
太陽が頷く。チームメイトと距離が縮まったことに、私の中にもささやかな喜びが生まれた。
「それで、どうしました？」
聞かれて言葉に詰まる。こちらから呼びかけておきながら、何を話すか考えていなかった。
私はふと頭の中に思い浮かんだ、純粋な疑問をそのまま口に出す。
「孔明とミキシマックスした時って、どんなだった？」
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
