657 闘士の目覚め ページ50
「嫌いなんだ。自分の化身が……」
「うちは好きやんね。『光速闘士ロビン』は、可愛くて強い化身やんね！」
黄名子のよく通る声は、私たちの耳にも入ってきた。
口にされた名前は、フェイの持つ化身のことを言うのだろう。フェイはぎょっとして黄名子の顔を見た。
「な、なんでそのことを……！」
「ビッグだって、精一杯の勇気を振り絞って戦ってる。フェイはそれでいいの？ 本当のフェイの力、見せてほしいやんね！」
私たちは何度もパーフェクト・カスケイドに向かっていった。ボールをぶつけられようと、抜き去られようと、闘志が消えることはない。
「みんなの姿が見える？ みんな、サッカーを守ろうとしている仲間やんね！ 仲間はみんな、全力で戦ってるやんね！」
黄名子は、言って──人差し指を真っすぐフェイに突き付ける。
「見せてよ──フェイの、本当の力！！」
フェイは数秒思案し、頷いた。黄名子の言葉が自分の琴線に触れたのかもしれなかった。
そこにボールが飛んでくる。フェイは跳躍してそれをカバーすると、ミキシトランスを解いた。
「僕の本当の力、見せてやる！ 『光速闘士ロビン』！」
背後に顕現したのは、兎の耳を持った戦士だった。拳には青い炎が揺らめいている。
──あれが、フェイの化身。眠っていた力。
それに感化されたように、ビッグの身体からも化身に似たオーラが出現した。それはロックスターを彷彿とさせるような、大きな姿をしていた。
ビッグはデスホーンに突進していく。化身のオーラにおののいたのか、デスホーンは背を向けて立ち去っていった。
「そうか、そういうことかぁ！ 行けるぞ！ フェイ、ビッグ──ミキシマックスだ！！」
ベンチからワンダバが立ち上がり、二人に向けてミキシマックスガンを構えた。
そうして引き金を引く。まばゆい光を通じて、オーラが受け継がれていく。
「ミキシマックス──コンプリート！！」
光が晴れれば……フェイはビッグの力をその身に宿していた。髪と瞳は海のごとき青に変化し、眼差しは力強くなっている。
この二人がミキシマックスするなんて。私たちにとっては予想外であったが、それは喜ばしい覚醒だった。
「ありがとう、ビッグ。君の力を借りるよ」
「パワーアップか。だがその程度の力で、我々に通用するはずがない」
「これだけじゃないよ」
フェイはレイ・ルクに言うと、自分の化身に向き直る。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
