656 立ち上がった幼竜 ページ49
敵のタックルを受け、フェイが吹き飛ばされる。デスホーンはそこに、一直線に向かっていった。
獲物に据えられたフェイは起き上がることもできず、迫りくる巨躯に身を竦ませている。
「フェイ、逃げて！！」
天馬が叫んだ直後。フェイの身体が踏みつぶされるかと思った瞬間。
ベンチの方から飛び出してくる影があった。そうしてデスホーンの動きが止まった。
──ビッグだ。ビッグがデスホーンの顎に噛みついている。
小さな体はすぐに振り払われた。しかしビッグは臆することなく、強大な相手に立ち向かおうとしている。
それは親を亡くして泣いていた、昨日までのビッグではなかった。
「ビッグ、君は乗り越えたんだね？ 一人ぼっちになってしまった孤独を……！」
フェイが立ち上がって呟く。さっきまでの葛藤は感じられない。ビッグの雄姿が、フェイの中の何かを突き動かしたのだ。
その小さな声は決意となり、瞳に決意がみなぎった。
「──いっしょに戦おう、ビッグ！」
その言葉に答えるように、ビッグは声を上げた。
試合再開。剣城からパスを受け取った私は、しかしすぐ三人の敵に行く手を阻まれてしまう。
どう突破するべきか──私は天馬に目を向け、判断を仰いだ。天馬は周りを見回し、少し迷ってからピッチのサイドを指さす。
「ひ、左から攻めます！ A先輩、錦先輩にパスを！」
「わかった！」
私はそれを信じ、足に力を込める。ただボールを蹴り出す瞬間、右足首に鈍い痛みが走った。さっきの恐竜の攻撃が尾を引いている。
山なりのパスは相手にカットされてしまった。
「ごめん、パスが遅かった……！」
「い、いえ！」
私のミスをカバーしてくれたのは神童。「右のディフェンスが薄くなっている！」と、的確な指示を出す。
向かっていったフェイは、またも抜き去られてしまった。それを見た黄名子が、みたび訴えかけた。
「フェイはやっぱり全力じゃない！ ビッグにあんなこと言ってたけど、フェイ自身は本当に前に進めているの？
化身アームドだってできるはずなのに、何故やらないの？ フェイを押さえつけてるのはなに？！」
フェイの顔が曇った。それは己の中にあるものを押し殺そうとするかのような、悲痛な顔だった。
私は二人を横目に駆ける。足の痛みを誤魔化しながら。捻挫はしていないだろうが、痣になっているのは確実だ。試合終了まで、持ってくれれば。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
