655 四方八方で ページ48
その身体を突き飛ばすように割って入る。トリケラトプスはスレスレで私の背後を通り過ぎていくが──邪魔だと言わんばかりに、尻尾での攻撃が襲い掛かってきた。
鞭のようにしなる尻尾が、私の右足首に命中する。焼けるような痛みが、瞬間的に脳天へ駆け巡った。
私はそのままバランスを崩して、神童の上に覆いかぶさるようにして倒れた。
「A！」
「私は大丈夫……！」
ゴールの方を見ると、ティラノサウルスに追い立てられて信助が逃げたのを好機に、レイ・ルクが七点目をゴールに叩き込んでいた。
だが今は失点を気にしている時ではない。恐竜の洗脳を解くのが先だ。
それから私たちはシュートを恐竜の身体に叩き込み、一匹ずつ洗脳を解いていった。正気に戻った恐竜たちは、自分がなぜここにいるのかわからないといったように周囲を見回している。
しかし、それによって私たちは体力を大幅に消耗してしまった。肩で息をする雷門に、レイ・ルクが無情に言い放つ。
「これで決定的となった。君たちが勝利する確率は――ゼロだ」
私はその言葉を胸の内で否定した。試合はまだ終わっていない。限りなくゼロに近くとも、僅かな可能性に縋り付く。
「ディフェンス！ 俺たちの後ろを守ってください！」
「駄目だ、サイドががら空きになる！」
天馬の指示に、神童が否を下す。しかしその時にはもう遅かった。右側を突かれ、突破される。
そこにフェイが向かっていったが、巧みなフェイントでかわされてしまった。
「「『シュートコマンド20』」」
二人技のシュートがゴールに突き刺さる。
さらなる追加点。長い長い時間が経ったように思ったが、今はまだ前半戦だ。
「なんでやんね、フェイ！ なんで全力で戦わないの！？」
その時。黄名子の大声が私を我に返らせた。
それはチームメイトに喝を入れるというよりは、親が子を叱咤するような口調だった。どうしてそんなことを思ってしまったのか、自分でもわからないけれど。
「た……戦ってるさ！ 全力で戦ってる！！」
フェイは言い返して、黄名子に背を向け駆け出していく。
その時。再び恐竜の咆哮が私たちの鼓膜を打った。
またもや乱入か。声の主を探して視線を巡らせると、目ざとく気が付いたトーブが岩場を指さした。
「デスホーン！」
それは二日前、ロックスターにとどめを刺した恐竜に違いなかった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
