652 人工化身 ページ45
「君たちが勝利する確率はやはり、限りなくゼロに近い。戦闘開始を要請する」
パーフェクト・カスケイドのキックオフで試合開始。昨日と同様速攻を仕掛けてきた。
しかし同じ轍を踏む私たちではない。0.1秒も迷わないプレーによって、まず天馬がボールに触れることができた。
「ボールはまだ我々のものだ」
「──行かせない！」
向かってきた選手から、スライディングでボールを奪う。「ナイスカットだ、A！」という神童の声を聞きながら、剣城にパスを回す。
それからは一進一退の攻防が続いた。昨日は手も足も出なかった相手に善戦できている。私たちは着実に力をつけているのだ。
トーブがボールをカットしたのをきっかけに、私たちは攻めの姿勢に出た。
「ミキシマックスで行くぞ！」
「「おうっ！！」」
神童の指示で、時空最強の力を手に入れている七人が一斉にミキシトランス状態になった。
雷門の持つフルパワーを駆使した様は、壮観だった。
一気に得点を狙うべく駆け上がる私たちに、しかしパーフェクト・カスケイドは一切顔色を変えない。
そして。
「無駄だ――『プラズマシャドウ』」
レイ・ルクの背後から、赤黒いオーラが噴出した。
それを見た私たちは、思わず足を止める。
サッカープレイヤーから具現化するというその特徴は、私たちの知る化身と同じ。だがこれを化身と呼んでいいのか──そう思うほど、それは異様な雰囲気を持っていた。
赤黒の電子の集合体──あまりにも、禍々しすぎる。
それは私の心の声なのか、私の内にいるクロエの声なのか。
気付けば背中に冷や汗をかいていた。化身に対して恐怖を抱いたのは生まれて初めてのことだった。
プラズマシャドウを従えるレイ・ルクは、いとも簡単に天馬を抜き去る。
そうしてパスを受け取った他の選手の背中からも全く同じものが出現したのを見て……私たちは言葉を失う。
あっという間にゴール前に躍り出た相手FWは、必殺技なくして先制点をもぎ取ってしまった。
「今までの化身と違う……！」
「これは化身ではない。プラズマシャドウだ」
天馬の言葉を、レイ・ルクは淡々と訂正した。
では、化身とプラズマシャドウの何が違うのか。もちろんそれを教えてくれるほど、相手は親切ではない。
それからも猛攻は続く。反撃の機会を見いだせないまま、気づけば四点目を入れられていた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
