651 二度目の決戦 ページ44
近くにいるから気づけない。それは遠くにいる人間だからこそ気づけることがある、と言い換えることができるかもしれない。
家族に言えないことが友達には言えるように。私自身にも、そういうことには覚えがある。
私たちはそれからも特訓を続けた。技は完成までには至らない。
きっかり一時間してから、トーブの家に戻った。道中でほんの少しだけ手を繋いだ。
＊
その夜は途中で起きることも夢を見ることもなく、深く眠った。
翌日からも再びトロオドンたちとの特訓が行われる。
トーブは、まだ危なっかしいところはあるものの、どんどん上達していっていた。
フェイもどこか吹っ切れたような顔をしていて、足運びに迷いがなくなった。
敵はまたいつ襲ってくるかわからない。いつでも迎え撃てるように、万全の体制を整えなければ。
と。ドリブルで駆けるフェイが石に躓いた。身体は前に大きく傾ぐ。
「――うわぁっ！」
「フェイ！」
近くにいた天馬が咄嗟にフェイの腕を掴んだ。
遠心力の要領で持ち直したフェイは、そのままボールを勢いよく蹴りこんだ。
シュートのぶつかった岩肌が僅かに削れたのを見て、当の本人たちだけでなく、見ていた私も目を丸くした。
「今の……」
「ああ！」
さっきのプレーを昇華すれば、きっと強力な技になる。私はそう感じた。
こんなひょんなことからも、必殺技を編み出すきっかけになり得る。活路が開けた気がして、私は鳩尾のあたりに手を当てた。
「目標を再捕捉」
と。色のない声が耳に届いた。
現れたのはやはりレイ・ルク。相手は私たちに何か言う暇すら与えずにスフィアデバイスを取り出すと、ムーブモードを発動させた。
眩い光が晴れると、一同は昨日のフィールドに瞬間移動していた。パーフェクト・カスケイドに大敗を喫した場所と同じ。
「プラン16に従い、行動を開始する。目的、雷門の殲滅」
淡々と告げるレイ・ルクに対し、錦と天馬が向かい合った。
「この前のわしらだと思ったら大間違いぜよ！」
「みんな、特訓の成果を見せるんだ！」
昨日までの私たちとは違う。一日前、一時間前の自分より、今の自分は強くなっている。
この試合も負けるようなことがあれば、今度こそサッカーは私たちの手の届かない場所へ行ってしまう。そんな事態は、なんとしても避けなければならない。
両チームがポジションに着く。相手チームは人間味の感じられない顔をこちらに向けていた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
