649 終わらない挑戦 ページ42
日が傾きかけた頃、引き上げる天馬たちに「先に戻ってて」と促し、私たちは残って必殺技の特訓に取り組んだ。
技をイチから作り出すことの難しさは知っている。だけど合体技というのは二人の息を合わせないと完成しない。
私たちはお互いのことをよく知っていると思っていたが、それは技を完成させる要素にはならなかった。
ゴールに見立てた岩に向かって、私たちは何度も何度もボールを蹴りこむ。しかし技のオーラがボールに乗らなかったり、薄っすらそれらしいものが現れたかと思えばあらぬ方向に飛んでいったりしてしまう。
円堂監督や鬼道さん……誰かに指導してもらえれば、活路も開けるかもしれない。ないものねだりだとはわかっていても、そう思ってしまった。
何十回目かのチャレンジが失敗する。私は息をついて、汗で額に張り付いた前髪をかき上げた。
「さすがに、そう簡単には完成しないね……」
「ああ。いったん、休憩を入れよう」
神童に促され、私は岩場の陰に置いていたボトルに手を伸ばした。しかし中身は空。さっきの特訓終わりに飲んだ分が最後だったのだ。
ちょっと近くの川まで汲んでくる。そう言おうとしたのを、目の前に突き出された新しいボトルが遮った。
「はい」
クロエが両手に一本ずつ、水がなみなみと入ったボトルを手にしている。様子を見に来てくれたのだろうか。私と神童はそれぞれにお礼を言って受け取った。
白亜紀の太陽は、私たちの時代のよりも赤く、大きく見えた。金色の残光を孕みながら、地平線の向こうへ沈んでいく。
「技あみだすの、大変？」
腰を下ろしたクロエがそう尋ねてくる。私と神童は同時に頷いた。
「ちょっとやそっとでは成功しない。たまに、土壇場で新技を見せる選手もいるが……やっぱり常日頃からの特訓がなければ、難しいな」
「一人技ですらも大変だったから、二人、三人になるともっと難易度は上がるだろうね」
「好き同士でも、やっぱりだめなんだ」
言ったクロエは、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。
私たちは赤面しかけたが、視線を合わせて肩を竦める。同じような問答をしたことが、前にもあった気がした。
気恥ずかしくなった私は話題を変えるため、クロエの顔を覗き込む。
「そういえばさ、クロエ自身は選手としてプレーしてみたいとか思ったことないの？」
クロエはきょとんとして私の顔を見つめ返してきた。この問いはそんなにも意外だっただろうか。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
