612 束の間の休息 ページ5
「遊園地？」
幕末から戻ってきた翌日のミーティングルームで、私は素っ頓狂な声を上げた。
目の前にいる黄名子が満面の笑みを咲かせながら、嬉しそうに頷く。
「そう！ 知り合いから、隣の市にあるテーマパークのチケット譲ってもらったやんね！ でも八人分しかないから、全員は行けないけど」
会話を聞きつけたクロエが、黄名子の手元を覗き込んだ。そこには扇形に広げられた八枚のチケットがある。
「これ、さいきん話題になってる人気のところでしょ？ 当日券もほとんどいっしゅんで売り切れちゃうくらいの。そんなとこのチケットを八枚もくれたの？」
「うん。その知り合いお金持ちだったから、気前よくくれたやんね」
クロエと顔を見合わせる。その人はどうやらなかなかの財力を持っているようだ。
私は黄名子からチケットの一枚を借りた。券面には『1DAYフリーパス』とある。これがあればどの乗り物にも乗り放題ということか。
──遊園地。最後に行ったのは小学生の頃だったか。父さんと母さんと姉と私、四人そろって。滅多に味わえない非日常感に、胸がはちきれそうなくらいワクワクしたものだ。
「なに、何の話？」
「テーマパークって聞こえたよ」
天馬と信助が話に入ってきた。他のみんなもちらちらと視線をこちらに投げかけている。
黄名子は改めて全員に遊園地の話をした。すると何人かが「行きたい！」と立候補する。主に天馬や信助を始めとする一年生たちだった。
私は挙手している人数を数えた。ひい、ふう、みい……私とクロエを入れて十二人。
と。クロエは輪の外に一人で立っている剣城に声をかけた。
「剣城は？」
「俺はいい」
「なんで。行こう」
「俺がそのくじ引きに参加したら、本当に行きたい奴の枠を一つ潰すことになるかもしれないだろ」
「つぶさないことになるかもしれないよ」
「あのなあ……」
「ま、まあまあクロエ。別に強制参加ってわけじゃないんだから──」
「これを逃したら、もう一生行けないかもしれんよ！？」
「いや、一生ってことはないと思うけど」
会話に割り込んできた黄名子をどうどうと宥める。
そうして私は、事の成り行きを眺めていた神童に話しかけた。
「神童は、行かない？」
「ああ、俺は……どうしようか迷っている」
「手、挙げるだけ挙げてみたら？ みんなで遊園地行く機会なんて滅多にないだろうし」
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
