647 恐竜相手に ページ40
「──やろう。得点の成功率を上げて、少しでも勝利に近づくんだ」
神童が頷いてくれたのを見て、自分の顔に笑みが広がるのが分かった。
時間は限られている上に、立ちはだかる敵は容赦なく私たちを潰そうとしてくる。そんな状況ではあったけれど、神童と合体技を編み出せるという意実に、私は喜びを感じていた。
技の練習は夕方から夜にかけてやることにして、今はとりあえず全体練習に専念することにした。
トロオドンは驚くべき知能で、私たちと互角に……いや、それ以上に見事なプレーをしてみせた。
人間にはなしえないような動きに、翻弄される。しかし彼らに後れを取るようでは、パーフェクト・カスケイドは倒せないだろう。
「《ミキシトランス・ティラノ》！」
ミキシマックス状態のフェイが向かっていくが、しかしボールを奪われてしまう。
フェイは額に汗を浮かべてミキシマックスを解いた。ティラノでは通用しない──その事実を改めて突き付けられ、焦りを感じているようであった。
そんなフェイをちらと横目で見た黄名子は、ドリブルするトロオドンへ果敢に向かっていく。
やがて何度も果敢に挑む、その小柄な背中から……僅かに黒いオーラが出現する。
「あれは……！」
化身だ。黄名子の強い思いに合わせて、化身が具現化しようとしている。
そしてその瞬間は唐突に訪れた。
並走する二匹のトロオドン。出されたパスを、なんとトーブがカットしてみせた。
「うおーっ！ 止めたぞ！！」
「すごいよ、トーブ！」
その場で飛び上がって喜ぶトーブに、私たちはただ舌を巻いた。
サッカーに初めて出会った昨日の今日で、ここまでの成長を遂げるなんて。
「みるみる上達している……凄まじい運動神経だ」
「いや、速さだけじゃない。迷いがないんだ」
霧野の言葉にそう返した神童は、何かに気づいたように顔を上げた。そうして私たちに指示を出す。
「みんな、一瞬でも迷うな！ 0.1秒でも早く判断するんだ！」
0.1秒でも早く。トーブがトロオドンの動きについていけたのは、判断が一切鈍っていなかったからだ。
野生の勘ゆえだろうか。ともかく私たちもトーブと同じように、迷いを捨て去らなければならない。そうすれば道が開ける。
真正面から、ボールを持ったトロオドンが迫ってくる。
私はその身体を真っすぐ見据えた。頭の中で最適解を導き出そうとするのを堪える。そんなことをしていてはあっという間に抜き去られる。
──迷うな、走れ！
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
