644 髪一重での逃走 ページ37
相手FWは一瞬にしてゴール前へ躍り出る。
「《ミキシトランス・劉備》！」
しかし。時空最強の力をもってしても、失点を防ぐことはできなかった。
ミキシマックスが通用しない。その事実が、私たちの焦りを加速させる。
それから雷門に手も足も出させないまま、パーフェクト・カスケイドは三点、四点と得点を重ねていく。
私たちは試合再開のキックオフを除けば、一度もボールに触れられなかった。
彼らはあくまでも淡々と、与えられた作業をこなすようにプレーをしている。サッカーをしているというより、課された任務がたまたまサッカーであったというような。
六点目を入れられた時点で、私は雷門の敗北を確信してしまった。
後半に入っても状況は好転しない。
そうして時間が過ぎていき──試合、終了。得点は0-19。完敗だった。
「そんな……」
絶望の呟きが私の口から漏れた。外に出てきたクロエも、呆然と得点板の表示を見つめている。
隙を見つけることができなかった。強すぎる──敵は私たちが想像していたよりも、遥か上にいる。
「マインドコントロールモードだ、レイ・ルク」
サカマキの声で、スフィアデバイスが球体化する。
──また、奪われるのか。襲い来るであろう洗脳の波に、ぎゅっと目をつぶったその時。
試合の様子を見守っていたトーブのお父さんが、鋭く鳴いた。
それと同時、フィールドの向こうから物凄い地響きが伝わってきた。
「な、なんじゃあ？！」
一匹や二匹の生物が立てる音ではない。
東の方角から、土煙がこちらに迫ってくる。それを発生させている源は──三十体はいるかという、恐竜の大群だった。
恐竜たちはそのままフィールドに侵入すると、私たちとパーフェクト・カスケイドの間に割り入るようにして駆けていく。砂埃が私たちの身体を押し包んだ。
神童に右手を引かれて私はようやく、今が逃げ出すチャンスなのだとわかった。
転びそうになりながらも走る。幸い敵が追いかけてくることはなかった。
＊
「ほーっほっほっほ！ 危ないところじゃったな！」
からくも逃げ出した先にいたのはアルノ博士だった。
どういう手を使ったのかはわからないが、根回しして恐竜を誘導し、私たちを助けてくれたみたいだ。
一行は広い場所に移動した。
それぞれの顔に浮かんでいるのは悔しさと無念だった。神童が地面を見つめながら口を開く。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
