643 規格外 ページ36
「行こう、クロエ」
「うん」
クロエは影となって私の中に収束した。私は胸の内に確かな力が宿るのを確認して、フィールドに足を踏み入れる。
両チームがポジションに着く。MFの位置に立った私は、改めて相手チームの様子を観察した。
キャプテンのレイ・ルクを中心に、他の選手が彼をぐるりと取り囲むような奇妙なフォーメーションだった。直立不動の姿勢で試合開始を待つ選手たちは、瞬き一つしていない。
「あんまり強そうじゃないやんね……？」
「ああ、覇気を感じない」
「でも不気味です……」
黄名子の言葉に霧野が同意し、速水が不安げに眉根を寄せる。
準備体操すらろくにしている様子はなかったが、それは「ウォーミングアップなどせずともお前らには勝てる」という余裕の表れか、あるいは。
「君たちが勝利する確率はゼロに等しい。だが、回避は不能。戦闘開始を要請する」
の会話に反応したのか、レイ・ルクが抑揚のない声で言った。
無色透明な挑発に、私たちは身構える。
パーフェクト・カスケイドのキックオフで試合開始。
相手は速攻を仕掛けてきた。フィールドを駆ける選手たちは、予めプログラミングされたような動きで切り込んでくる。
──速い。正確無比な鋭いパス回しを目で追うのがやっとだ。
努力の裏付けとか、そういう次元じゃない。あまりにも緻密なチームワークが、私たちの反撃を許さなかった。
そして、試合開始から十数秒。敵のシュートは信助の身体を巻き込んでゴールネットに突き刺さった。
絶望のホイッスルが周囲に響く。私はこの場から一歩も動けなかった。どうすればボールを奪えるかのイメージが全く湧かなかった。
「この得点により、君たちが勝利する確率は更に低下した」
レイ・ルクの言葉に歯向かいかけた錦だったが、ぎょっとして相手チームの顔を見回す。
「アイツら、点取ったのに表情一つ変えんぜよ！」
「あれがパーフェクト･カスケイド……！ 全てにおいてパーフェクトな、エルドラド最強のエージェント……！」
神童がほぞを噛むように言った。彼らは先制点を仲間と喜ぶでもなく、すでに所定の位置についていた。
──完璧な強さを手に入れるためには、感情さえも捨てたということか。
実力差に圧倒された私たちだったが、このままでは終われない。
雷門のキックオフで試合再開。フェイから剣城にボールが渡ったが、しかし五歩も歩かないうちにカットされてしまう。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
