642 それは完璧な ページ35
そこは洞窟にも似た、広い谷間だった。天井部分、岩肌に丸く切り取られた部分からは青空が見えている。
どの時代に赴いても、この展開は避けられないということか。私は拳を握り締めて身構える。
「──あ！ お前だな、ロックスターをあんな目に遭わせたのは！ ニオイでわかっぞ！」
トーブが指さした方向には先ほどの少年がいた。しかしトーブの威嚇など意に介さない様子で、少年は淡々と告げる。
「ロックスター、死亡。この事象によって、君たちの目的は達成不可能になる。諦める事が懸命」
「何を言っとるがぜよ！」
挑発ともとれる言葉を、少年はどこまでも事務的に口にした。
こいつだ、ロックスターを洗脳したのは。胸の中に激烈な怒りが沸き上がりかけるのを、私はどうにか堪える。
と。岩場の陰から新たな人物が姿を現した。紺のスーツに身を包み、色付きサングラスのようなものをかけたその男は、少年の隣に並ぶ。
「やはり潰すしかないようだな──レイ・ルク」
あちら側の人間だと一目でわかる風貌だった。ワンダバが前に出て、男に凄む。
「エルドラドの刺客だな！？ 名を名乗れいっ！」
「敵の要請。現在の状況に支障なし。返答する。私はレイ・ルク。エルドラド所属のチーム、パーフェクト･カスケイドのキャプテン」
──パーフェクト・カスケイド。サカマキトグロウ率いる、エルドラド最強のエージェントが、私たちを潰すためにやってきたのだ。
レイ・ルクの背後に十人の少年たちが現れた。それぞれに髪型や顔つきこそ違うが、背格好が揃って均一なのが不気味だった。
「じゃあ、アイツらを倒せば……円堂監督とサッカーも取り戻せる！」
天馬の言葉通り、こいつらに勝てれば、歴史が元通りになる見込みも一気に高まる。
隣にいたクロエと視線が合った。頷き合う。最強だろうが何だろうが、私たちは勝利しなければならない。
「天馬、おらにもやらせてくれ！ 友達をひでぇ目に遭わせる奴は、ぜってぇ許さねぇ！！」
そこで身を乗り出したのはトーブだった。
固く握りしめられた拳から、強い決意が伝わってくる。天馬はその瞳を真っすぐに見つめ返して、頷いた。
「よし、頼むよトーブ！」
トーブは顔を輝かせ、「やるぞ！」と走り出していく。
そうすると誰かが一人スタメンから外れなければいけないのだが……今回は狩屋が、渋々といった様子で譲ったのだった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
