641 トーブの事情 ページ34
トーブは、私たちの時代から数えて約150年後の時代の人間だった。
正確にはフェイたちより一世代前、タイムマシンが完成されてすぐの頃に生まれた存在だという。
当時はタイムジャンプの技術も未熟で、事故が多発していた。トーブはその事故で、恐竜がいる白亜紀へと飛ばされた。
事故に遭う際、せめて我が子だけでもと両親が、トーブを救命カプセルに入れ、脱出させたのだと考えられている。
それが時間の波を流れて、今のトーブの父親である恐竜の巣に紛れ込み、これまで育てられてきた──と。
人の言葉を話せるのは、救命カプセルに教育プログラムが搭載されていたから。
赤ん坊のためのミルクも自動的に与えられるようになっていた。
「──と、いうわけじゃ！」
「トーブは未来の人間だったんだ……！」
判明した事実に驚愕を隠せない。
タイムジャンプの事故によって過去に飛ばされた少年。それがトーブの正体だったのだ。
「今、時間管理局が彼の本当の両親を探しておる。生きているかはわからんが……」
もし生きていれば、親子は再会を果たすことができる。
だけど本人──トーブがどんな選択をするかは、その時にならないとわからない。生みの親と育ての親、どちらの手を取るのだろうか。
「トーブ……本当のお父さんとお母さんに、会えるといいね」
「……そうだね」
信助の言葉に頷いたフェイは、茫洋とした眼差しでトーブとビッグの方を見つめていた。
心ここにあらずといった様子のフェイに、私は思わず声をかける。
「フェイ、どうかしたの？」
「あ、ごめん！ なんでもないよ」
フェイは笑って、顔の前で手を振った。
何か思うところがあったのだろうか。気になったけれど、追及するのはやめておいた。
「──目標を補足」
その時。そんな無機質な声が、私たちの鼓膜を震わせた。
第六感が警鐘を鳴らす。背中を嫌な汗が伝っていった。
その人物は丘の上にいた。坊主頭の少年は、感情を一切排した目で私たちを見下ろしている。
少年は手に持っていた小型の機械を宙に投げた。それは一瞬の間に、青い球体へと代わる。
「あれは、スフィアデバイス！」
「ってことはアイツは──！」
フェイと錦の言葉を遮るように、『ムーブモード』というアナウンスが響いた。
デバイスから発せられる青白い光は、一瞬にして私たちを包み込んだ。
たまらず閉じた目を再び開けば──私たちはそれまでと全く違う場所にいた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
