637 親の役割は ページ30
「しかし困ったな。ロックスターがここまで弱っていては、ミキシマックスができないぞ」
「ちょっと、ワンダバ……」
私は反射的にワンダバの言葉を制した。今はその言葉を口にするべきではない。
だけど確かにワンダバの言う通りでもあって、私たちは時空最強の力を手に入れるためにはるばるここまでやってきた。目標としている存在が瀕死の状態である今、また作戦を一から練り直さなければならなくなる。
その時。周囲に地響きが伝わってきて、私たちは辺りを見回した。。地震ではない。明確な意志を持った存在がこちらに近づいてくる足音だった。
その正体は南の方角からやってきた。ロックスターよりも一回りほど小さな身体をした恐竜が、土煙を上げながらこちらに真っすぐ突進してきている。
「トリケラトプス！」
「――何しに来た、デスホーン！！」
信助とトーブが叫ぶのがほとんど同時だった。頭に角を生やしたその恐竜──デスホーンは、目をぎらつかせてロックスターに向かっていく。
「アイツは獣の谷の暴れん坊で、ここらへんのボスの座を狙ってる！ 弱ったロックスターを襲うつもりだな！？」
私たちは岩壁に隠れながら、トーブの言葉を聞いた。
ロックスターとデスホーンが対峙する。私たちは今、大自然における過酷な縄張り争いを目にしていた。
だが……ロックスターが勝てる見込みがあるとは言い難かった。瀕死の状態では、どうやっても戦うことは厳しいだろう。
「無理だ、ロックスター！」
「子供を守ろうとしているのか……！」
ビッグはロックスターの陰に隠れ、身を縮こませている。
ロックスターは怯まなかった。ここで背を向ければ、ビッグの身体がデスホーンの爪に引き裂かれてしまうとわかっているから。
「子供を守るのが親の役目！」
──と、立ち上がったのは黄名子だった。
決然とした瞳で、私たちに呼びかける。
「ロックスターの手伝い、するやんね！」
みんなは頷いた。ここでこうして見ているだけなんてのは、雷門魂に反する。そう思えたから。恐竜に立ち向かうのは恐ろしかったけれど、私は己を奮い立たせた。
霧野と神童、私、天馬、錦、黄名子が前に出る。
「行くぞ！」
神童の合図で、一斉に飛び出した。
ボールは神童から黄名子へ。黄名子はダイレクトで、デスホーンにシュートを放った。その巨体が一瞬バランスを崩したが、しかしすぐに持ち直してこちらに襲い掛かってくる。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
