635 介在する魔の手 ページ28
「いつもなら、これで落ち着かせることができるのに……！」
トーブが、打ち付けた頭をさすりながら言った。
恐竜を落ち着けさせる方法なんてわからない。しかしこのままだと私たちは全滅してしまう、何か、なにか策はないか……。
「俺たちに任せろ！」
と、声のした方に視線を向ける。剣城と太陽、天馬の三人が、ロックスターと対峙していた。サッカーボールを手にして。
そうだ、私たちには──サッカーがある。
三人は目配せをして走り出した。
ボールは天馬に渡り、太陽が繋いで、最後に高く跳躍した剣城へ。
「『デスドロップ』！」
必殺シュートがロックスターの身体にヒットする。
ロックスターは頭を垂れ、大人しくなった。私たちは胸を撫でおろす。
「お、おめえらなにやったんだ？」
「サッカーだ」
「さっかあ？」
トーブは剣城の顔とサッカーボールを見比べる。そうしてぱあっと顔を輝かせると、その場でぐるぐると回り始めた。
「すっげえ！ サッカーってすっげえぞー！！」
強力な技を目にして、興奮しているのだろう。
もしトーブがサッカープレイヤーだったら──と、ふと想像する。他の選手の度肝を抜くようなフィジカルを見せ、素晴らしいプレーをするのではないか。
「でも、何があったのかな……本当は優しい恐竜なんでしょう？」
葵が不安げにそう零す。トーブは「聞いてみるぞ！」と言って、恐竜語と思しき言語でロックスターに語りかけた。
ロックスターは低く唸った。その目に苛立ちのような色が浮かぶのを見て、私たちは身構える。鋭い瞳は、天馬の持つサッカーボールに注がれていた。
「なんて言ってるの？」
「……変なのが来て、そのサッカーみたいなやつをぶつけられたらしい！」
私たちの間に驚愕が走った。先ほどの暴走は人の手によって引き起こされたものだったのだ。その『人』が誰なのかは、もちろん察しが付く。
「エルドラドのルートエージェントが先回りして、ロックスターを洗脳したのか！」
神童の言葉に、全員の顔が引き締まる。向こうはどうやら、とことん私たちの邪魔をするつもりらしい。
パーフェクト・カスケイドの名が頭をよぎった。彼らはこれから、必ず私たちの前に立ち塞がるだろう。
と。私はロックスターの様子がおかしいことに気が付いた。その身体が一回り小さくなったような、そんな印象を受ける。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 218人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
