【イナクロ】君へ贈る旋律第十四楽章【神童拓人】 (ページ27)

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634　荒れ狂う牙ページ27

「おーい、ロックスター！おめえに会いたいってやつ連れてきたぞ！」

洞窟に向かってトーブが呼びかける。

それに返事をするように、恐竜の鳴き声が耳に届いた。同時に、地を揺らす足音も。今までの恐竜とは比べ物にならない強さを誇るというのが、その足音だけからでもわかった。

そうして。ロックスターは洞窟かあではなく、私たちから向かって左側の岩場の陰から姿を現した。

「そんなところにいたのか！」

トーブが気さくに呼びかける後ろで、私たちはその威容にただただ圧倒されていた。

──大きい。

巨躯からはありありと強者の風格が滲み出ている。左目には斜めに二本の傷が走っていて、牙は私たちの身体なんて簡単に噛み裂いてしまいそうなほど鋭かった。

「これがロックスター……！」

「でかいぜよ！」

そんな風にして、ロックスターを見上げていたその時。

鋭い咆哮が空気をびりびりと震わせた。

次の瞬間、ふっと影が降りる。見るとロックスターの足が、私たちを踏みつぶさんと迫ってきていた。

「危ない！」

呆けていた私の腕を、太陽が引く。さっきまで私がいた場所には巨大な足跡ができた。

──間違っても、歓迎されているようには思えない。私たちは後ずさる。

「おい、どうしたんだ？こいつらは敵じゃない！良い奴だぞ？！」

その訴えも跳ね返された。振り上げられた尻尾がトーブの身体をなぎ倒す。

そうしてロックスターは私たちに襲い掛かってきた。全力で逃げながら、私は思考を巡らせる。

一体、どうなっているんだ。良い奴だと言っていたトーブの言葉は嘘だったのか。いや、トーブの様子からするに、ロックスターが急に豹変してしまったかのような──。

その時。

「うおおおおおっ！！」

雄叫びが聞こえて振り向く。私たちはトーブの背中から黒いオーラが盛り上がるのを見た。それは大きな槍を持った、獣の姿へと変化する。

「化身……！」

クロエが前のめりになって呟く。

目の前の光景が信じられなかった。人間離れしたフィジカルを持つとはいえ、まさかトーブが化身遣いだなどとはつゆほども予想していなかった。

トーブの化身とロックスターが真正面からぶつかる。ロックスターは一瞬怯んだように見えた。

「落ち着け！落ち着くんだ！！」

しかしロックスターは化身を跳ね返した。トーブの身体は岩肌に打ち付けられる。