633 歩き通して ページ26
「ここが獣の谷だ！ ロックスターはここの洞窟に住んでいるんだ」
私たちはトーブに連れられて、岩肌がむき出しの谷間にやってきた。吹き付ける風は鋭く、来る者を拒むような雰囲気がある。
「凄く大きな恐竜なんだろう？ 危険はないのか？」
「心配ない、ロックスターは友達だ。とっても良い奴だぞ！」
霧野の問いに、トーブがそう言った。
獣の谷の主にも顔パスなんて。実はトーブ自身こそがかなり力を持っているんじゃなかろうか。
「そうなんだ！ 恐竜のボスまで友達だなんてすごいね！」
「すごい？ 別に普通だぞ。じゃあ行くぞー！」
トーブが先導して歩き出す。私たちは固まってその後ろについて行った。
＊
しかしそれからの道のりは、それはもう過酷なものだった。
ほぼ垂直の切り立った崖を上ったかと思いきや、幅一メートルもない隙間に無理やり身体を通して。
最短距離を突っ切らなくてもいいから、迂回してもっと安全な道を行ってほしい……と言いかけたけれど、この時代に道が整備されているわけもないので言葉を呑み込んだ。
「おせえぞ、おめえら！」
当のトーブはまるで恐竜のように、人間離れした体力と機動力を持っていた。すいすいと岩場を上り、こちらに向かって手招きをしている。
「大丈夫か、A？」
「ああうん、私はまだ平気」
神童の問いに笑って頷く。一応クロエの様子も確認してみたが、物珍しそうに周囲を見回すだけの元気はあるみたいだったので大丈夫だろう。
隣では太陽がトーブに向かって呼びかけていた。
「あとどれくらいなの？」
「んー、半分ってとこかな？」
まだ、半分。ロックスターは一体どんなところに住んでいるというのだろう。私は溜息をついて額の汗を拭った。
「えぇ、まだ半分なの……ちょっと休憩しましょうよ！」
「だらしねえぞ、ナヤミ！」
「速水です！」
速水の抗議は聞き入れられず、私たちは気合を入れ直して残りの道程を進んだ。
そうして歩くこと約一時間半。私たちはロックスターの住処である洞窟にたどり着いた。恐竜が済むだけあって、洞窟の入り口の直径は二十メートルほどと巨大だ。
「ティラノサウルスを超える恐竜のオーラ……ここまで来たら、なんとしても手に入れないとね」
弾んだ息を整えながら言う。神童と霧野が同時に頷くのを視界の端に捉え、私はトーブの後に続いて歩を進めた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
