629 見守る先は ページ22
「二人、ずっとボールを追いかけてるやんね。明日はロックスター探しに行くから、早く寝た方がいいとは思うんやけど……」
男の子っていっつもこうやんね。そう言う黄名子の口調に、馬鹿にした様子はなく、温かな優しさが見え隠れしていた。
黄名子に視線を移した私は、束の間目を丸くする。
フェイを見るその目は、慈しみに溢れていた。その眼差しには覚えがあった。五十嵐先生のことを話すときの姉の目と似ている。
だから私は、自然とこう問いかけていた。
「黄名子ってさ、フェイのこと好きなの？」
「ふえっ？！」
黄名子は大きな瞳をさらにまんまるくして、素っ頓狂な声を上げた。そうしてその声が思ったより大きく響いたので、慌てて自分の口を押さえる。しかし二人には聞こえなかったようで、胸を撫でおろした。
言ってから、無粋な質問だったと思った。あまり深く考えず、邪推にも似たことを口にしてしまうなんて……と反省する。
私はフェイと黄名子の顔を見比べて、ちょっと肩を竦める。
「なんか、ごめん。急に変なこと聞いて」
「ううん、気にしないで」
黄名子は顔の前で手を振り、フェイのほうへ視線を向けた。
「うーん、好き、やけど……きっとAの言う『好き』とは違うやんね」
「違う？」
「うまく言えないけど……フェイが挫けそうになった時には支えてあげたいとは思う。今は、同じチームの一員として」
私は黄名子の横顔から、しばらく目が離せなくなった。その幼い顔立ちが、一瞬大人びたもののように見えたから。
隣に並んで同じ景色を見たいというよりは、一歩後ろで見守っていてあげたいという思いが、その言葉からは感じられた。
「ていうか、そう言うAは神童先輩とどこまで行ってるやんね〜？ うちとしてはめちゃくちゃ気になるんやけど」
「えっ」
突然水を向けられ、しどろもどろになる。
だけど恋バナを振ったのは自分の方なので、こう質問されるのは覚悟しておくべきだったのだ。
「ちゅーは、ちゅーしたやんね？」
「え、し……うん、した……」
「ひゃー！ 観覧車で？！」
「あ、っと、うん。なんかこのタイミングで言うのもおかしいけど、ありがとね……気い遣ってくれたんでしょう」
「そんなん朝飯前やんね！ いいなあ、青春やんね〜」
黄名子はひとしきりはしゃいでいたが、不意に天馬とフェイの方に目を向けて口をつぐんだ。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
