610 終わらない戦い ページ3
「勝ったのに、ザナークを倒したのに……サッカーも、円堂監督も取り戻せていない！」
「彼らはエルドラドの正式なチームじゃないんだ。エルドラドによって差し向けられたようだけど、本来の勢力じゃない」
天馬の言葉に、フェイがそう返した。
確かにザナークの言動を見るに、エルドラドに忠誠を誓っているようなところは見られなかった。
「それじゃあ、どうすればいいの？！」
「もし今の僕らがエルドラドを倒せる力を身に着けているのなら、未来に乗り込んで戦うことになる」
過去ではなく、未来。そこで敵を叩くということか。
私たちは互いに顔を見合わせた。まだ時空最強の力は全て集まっていない。未来へ向かうのは、もう少し先のことになるだろう。
「慶喜公、約束ぜよ！ 大政奉還、してもらうぜよ！」
城の方では坂本さんと中岡さんが、慶喜公と対峙していた。
慶喜公はしばらく坂本さんの顔を見ていたが、やがて一つ息をついて立ち上がった。
「──仕方あるまい」
賭けに負けたというのに、その顔はあまり悔しそうには見えなかった。
しかしどちらにせよ、この後幕府は滅びることになる。そうして今の日本に繋がっていくのだ。
「うおおおお！ 新しい日本が始まるぜよ！ これもおまんらのおかげぜよ！」
坂本さんは錦の手を取り、ありがとうありがとうとしきりに繰り返していた。
今までの努力が実った瞬間に、私たちも温かな気持ちで坂本さんを見つめた。しかし、
「てゆうか、なんでさっきからぜよぜよ言ってるんですか？」
私の中に起こった疑問を、狩屋が口に出した。そう、何か違和感があると思ったら、それは坂本さんの口調だった。まるで錦のしゃべり方が移ったみたいな。
「ああ、これか？ 俺っちの国ではぜよぜよ言ってたんだが、京に出てからなんとなく恥ずかしくて、国の言葉を隠してたぜよ……でもこいつに会って、そんなのちっぽけなことだってわかったぜよ！」
そういうことか。錦との出会いが、坂本さんに良い刺激をもたらしたのだろう。
「もう一つ決めたことがあるぜよ！ 毎日サッカーして痩せるぜよ！ あの写真に写ってるのが未来の俺っちなら、期待を裏切るわけにはいかんぜよ！」
そうして坂本さんは、右手を着物の袂に入れてポーズをとってみせた。あの有名な写真と同じ。
なるほど、こういう経緯があってあの写真を撮るに至ったのか。そう思うと、自然と笑みがこぼれた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
