627 獣の谷の主 ページ20
「んー……おめぇの言ってることよくわかんねーぞ！ おらはずーっとここで育ってきたぞ。おらは父ちゃんの子だ。父ちゃんの卵から生まれたんだ！」
卵というワードに、私たちは顔を見合わせた。
まさか、そんなはずはあるまい。人間は胎生だ。誰もがみんな、お母さんのお腹の中から生まれる。だから『父ちゃんの卵』というワードにもすごく違和感があるのだが……。
「卵？ んなアホな」
「嘘じゃない！ その卵、見せてやるぞ！」
水鳥の言葉を受けて歩き出したトーブだったが、すぐに「あ」と声を漏らして立ち止まった。
「って言いてえとこだけど、ちょっと前に父ちゃんが踏んで壊しちまったんだな……」
私たちはちょっと拍子抜けして肩を落とす。
トーブのお父さんは自分のことが話題に上ったからなのか、またひと鳴きした。
「それで、おめえらはどこから来たんだ？ 向こうの山か？」
「俺たちは恐竜を探しに来たんだ」
「そう！ ティラノサウルスよりも強い恐竜……トーブは知らない？」
「ティラノ……？」
トーブはきょとんとしていた。それを見た信助が天馬に耳打ちする。
「ティラノサウルスって名前は遠い未来、僕たちの時代の人がつけたんだ。だからトーブは知らないよ」
「あ、そっか」と天馬は目を瞬かせる。
後世、研究者が調査をしたことで、恐竜の個体に初めて名前がつけられていったのだ。だから名を伝えてもトーブはわからないと思ったのだが。
「知ってっぞ？ ティラノサウルス」
トーブはあっけらかんと言った。私たちの驚愕をよそに、トーブは腕組みをして宙を睨む。
「でも……ティラノサウルスって、そんなに強くはねーけどな」
……ティラノが強くないなんて、そんなことあるのだろうか。恐竜の代名詞な気がしていたのだが。
「そんなはずないよ、ティラノサウルスだよ！」
「ほんとだ！ おら嘘は言わねえ。でも強いやつなら知ってる！ そいつはロックスターってんだ！」
ロックスター。初めて聞く名前のはずなのに、私は自然と生唾を呑み込んでいた。
海をも割る牙の力──ロックスターは、時空最強の力として相応しい存在かもしれない。
「獣の谷の洞窟に住んでる、ここら辺のやつらのボスなんだ！ 他のやつよりもずーっとでっけえんだぞ！」
「それだ！」とすかさず浮上してきたのは大介さん。
「おー、喋る石か！」
「ボスの力なら、ミキシマックスに相応しい！ そのロックスターとやらのオーラを頂こう！」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 218人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
