624 原始時代を生きるには ページ17
「君は一体何者なんだ？」
ワンダバの問いかけに、少年は自信満々に自分の顔を親指で指した。
「おら、トーブっていうんだぞ。なんか文句あっか？」
喋った。意思疎通ができる。
私たちの驚きをよそに、少年──トーブは私たちの匂いを嗅ぎ始めた。
「な、何……？」
「おめえら、おらと似てるぞ！ おらと似てるやつ初めて！ なんか嬉しいぞ！ あはは！ うほほ！」
両手を上げて喜ぶトーブを、私たちはただ見つめることしかできない。
この子はずっとこの時代に生きているのだろうか。考古学者たちの今までの研究が間違っていただけで、実はこの時代には既に人間が誕生していたのだろうか。いや、そんなはずは。
「おめえ、名前は？」
「天馬……」
「トンマか！」
「いや、てん──」
「そうだ。お前ら、おらの家に来い！ こっちだ！」
トーブは一方的に言うと、一人南の方角へ走り出していった。
家……住処。この恐竜の時代を生き抜くための住居があるというのだろうか。
「とにかく、行ってみよう」
神童の言葉に、私たちは頷いた。
右も左もわからない今、あの子について行けばなにか指標が見つかるかもしれない。
＊
トーブは険しい岩場をすいすいと進んでいった。私たちはその背中を見失わないようにするだけで精いっぱいだった。
「早い……こんなに足場が悪いのに」
「並の運動神経じゃないな」
霧野と神童の会話に、心の中で同意する。
地形を知り尽くしているといった感じだ。自分の家までの道を歩いているのだからそれは当然といえるのだが、こんなに過酷な家路は他にないだろう。
ようやく追いついた時には、みんな肩でぜえぜえと息をしていた。
トーブが足を止めたのは、目の前に深い谷が広がっていたからだった。対岸までの距離は二十メートルほど。間違ってもジャンプで渡れる距離ではない。
「これじゃあ先に進めない……」
「友達の力を借りるんだ」
トーブは事も無げに言って指笛を吹いた。
その高い音の余韻が完全に消えた時。地の底から響くような地響きがしたかと思うと、谷間から巨大な恐竜の頭が姿を現した。
驚いて反射的に身をのけぞらせた私たちとは対照的に、信助は目を輝かせる。
「アラモサウルスだ！ 大人しいから大丈夫！」
確かに言われてみれば、先ほど見た恐竜だった。同じ個体かどうかはわからないけれど。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
