623 たった一人の ページ16
言いながらワンダバは小石に躓き、坂道をごろごろと転がっていってしまう。
──注意深く進めって、言ったそばから。
「ワンダバ、大丈夫？！」
私たちは坂を下る。ワンダバはなにか岩のようなものにぶつかって止まった。
そうして──その岩が、岩と思っていたものが動いたのを見て、一同は凍り付く。
「ワ、ワン、ダバ……」
「なんだ天馬、はっきり言え！」
「う、後ろ！」
「え？ 後ろがなんだって──」
振り向いたワンダバは、驚愕の叫び声を上げた。
──ティラノサウルスに似た狂暴そうな恐竜が、血走った目で私たちを睥睨している。
私たちは全力で来た道を駆け戻り始めた。後ろから追いかけてくる恐竜の足音が、地面を揺らがせている。
終わりだ、追いつかれるのも時間の問題。目に薄っすらと涙が浮かんでくる。迫りくる死の恐怖に、私の心臓はめちゃくちゃに暴れていた。
と。信助が足をもつれさせて転んだ。天馬がすかさず助け起こしに行く。
しかし恐竜は目と鼻の先に迫っていた。
「信助、天馬！」
葵が叫ぶのと同時、恐竜が牙を剥く。
二人は咄嗟に抱き合い、襲い掛かってくるであろう衝撃に備えた──が。
突如、右方向から影が躍り出てきて、恐竜にぶつかった。予期せぬ攻撃に、恐竜の身体は地に伏す。
顔を上げた信助はその影を見て、「パキケファロサウルス！」と声を上げた。その正体は、私たちに襲い掛かってきた恐竜よりも二回りほど小柄な恐竜だった。
こんなことがあるのか。恐竜同士が争うことはあっただろうが、だとしても図ったようなタイミングで私たちを救っただなんて。
ふと、その背後。倒された恐竜が再び起き上がり、低い唸り声をあげた。
私たちは身を硬くする。パキケファロサウルスがこちらに背を向けた。
その背に乗っていたものを見て、私は絶句する。
「がおーーーーーっ！！」
──人間。
小麦色の肌。ぼさぼさの頭には、何かの動物の頭蓋骨らしきアクセサリー(？)が乗っかっている。体躯は小柄で、私たちより少し年下くらいの男の子。
恐竜はその少年の威嚇を受けると、尻尾を巻いてすごすごと立ち去っていった。
「神童、これって……」
「ありえない。ここは恐竜時代だ。人間が誕生するのは、もっとずっと後のことなのに……」
男の子に視線を据えたまま、私たちはそう呟いた。
パキケファロサウルスの背から降りたその子は私たちと向かい合う。その瞳にとりあえず敵意はなさそうなのだが……。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 218人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
