618 地上100メートルにて ページ11
「明日からまた、特訓の日々だね」
「ああ」
私の言葉に神童が頷いてくれる。
「時空最強の力は半分集められた。戦いは、折り返し地点に来ているはずだ。俺たちはこの先のすべての試合に勝たなければならない。サッカーを守るために」
ホーリーロードの時と同じだ。自由なサッカーを取り戻すために、私たちは優勝することをレジスタンスから求められた。そうして本当に、力を合わせて優勝してしまえた。だから。
「でも、私たちなら大丈夫」
ごくごく自然にそんな言葉が口から出ていた。
楽しい時間に終わりがあるのと同じように、辛い時間にも必ず終わりが訪れる。ベストを尽くして戦えば、その先には必ず光があるはずだ。
椅子の上に置かれていた私の左手が、自然な動作で取られた。私は勇気を出して、人差し指を神童の長い指の間に滑らせる。神童は察してくれたのだろう、ゆっくり指を絡めてくれた。
心が凪ぐのがわかる。これから先どんなに高い壁が立ちはだかろうと、みんなが、神童が隣にいてくれたら大丈夫だ。
「全部終わって、サッカーが元に戻ったら……またこんな風に遊んだりしたいね」
「そうだな。今度は全員で来れるといいな」
私は頷いた。だけど頷いてから──神童と二人で過ごす時間もいっぱい作りたいんだけどな、と思った。自分で考えておきながら恥ずかしくなったので、結局口には出さなかったけれど。
神童が動く気配が、繋いだ手から感じられた。
私は反射的に左を見る。
そうしたら、神童の顔が目の前にあって、私たちの唇が触れ合った。
私たちのいるゴンドラの中だけ、世界から切り離されたんじゃないかと思った。
神童はすぐに離れた。そうして呆然となった私の顔を見て、愛おしそうに笑った。
「観覧車の頂上でキスをしたカップルは、この先ずっと幸せになれるっていうジンクスがあるって……クラスの女子が話していたのを聞いた。そんなものにあやかる必要も別にないとは思ってたんだが、今なんとなく、こうしたくなった」
私は思わず、絡めた指に力を込める。遅れてゆっくりと頬が熱くなっていくのが分かった。
ジンクスを特別信じないというのは、神童らしい考え方だった。だけどそんなの関係なしに私に触れたいと思ってくれたという事実が、何よりも嬉しかった。
「それにこの前のキスはAからしてくれたから──今度は俺からしようって決めていたんだ」
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
