609 思わぬ闖入 ページ2
ザナークドメインの目つきが変わった。それまでの見下したような面持ちはなく、本気で勝利へ向かうプレイヤーの顔になっていた。
「『バンジースラスト』！」
「『もちもち黄粉餅』！」
ボールを奪い、奪い返す。
「『古代の牙』！」
「『サンドカッター』！」
シュートを打ち、それを防がれる。
残り時間はあとわずか。恐らく次のワンプレーで決着がつく！
こぼれ球を拾ったのは錦だった。そのままゴールに向かっていく。立ちはだかったのはザナーク。
「ゴールは決めさせないぜ！ 『魔界王ゾディアク』──《アームド》！」
「『戦国武神ムサシ』──《アームド》！」
ここで錦は初めてアームドを成功させた。武神の鎧が日の光を受けて煌めく。
強烈なシュートが貴女れた。ザナークはそれを打ち返すべく踏ん張る。
永遠に続くかとも思われる両者互角の戦いを制したのは──錦だった。ゴールネットが揺れる。
そこで、長いほら貝が鳴った。得点は3-2──私たちは見事、逆転勝利を果たした。
私の中から出てきたクロエは、どこか誇らしげな表情で私のことを見上げてきた。
私は手を伸ばす。頭を撫でるためではなく、ハイタッチをするために。
クロエは笑ってそれに応えてくれた。手を合わせる軽快な音が、青空に吸い込まれていった。
ザナーク以外の十人が、どこかへテレポートしていく。ザナークに神童と天馬が詰め寄った。
「サッカー禁止令を解除しろ！」
「円堂監督を返せ！」
「──円堂ってのはこの石のことだろ？」
ザナークが懐から取り出したのは桃色の石だった。青い『C』の字が刻まれている。
クロノストーンだ。そんな、まさか。
「ほらよ」
ザナークはクロノストーンをこちらに投げて寄越した。天馬が慌てて手のひらで受け止めようとしたその瞬間。
──両者の前に突如として表れた何者かが、石を掴んだ。瞬きする一瞬の間に、その人物はそこにいた。
白いローブを身に纏い、豊かな髭をたくわえているということだけはわかった。その人物は石を手に入れると同時、白い光を放ちながらどこかへ消えた。
突然の闖入者に、誰も何も言うことができない。
ザナークはそれ以上は私たちに情報を与えることなく、バイクに乗って去っていった。
勝利を掴めたというのに、その喜びは今やほとんどなかった。今の人物は、私たちと敵対する者なのだろうか。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
