toxic 9 ページ26
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「────A、朝だぞ」
あれからどれくらい経っただろうか。
あの日を境に俺の生活は大きく変化した。半年ほど住んでいた自宅から連れ去られ、無理矢理俺は片割れの家に押し込まれた。高級そうなタワーマンションの上階に住む片割れの家は質素すぎて、こんなに広い家に住んでいるというのに勿体無いなんて思ってしまったほどである。
当たり前に一つしかないベッドに俺を引き込んで一緒に寝る毎日。狭い上に嫌いな男とくっついて寝ることへの嫌悪さに頭がどうにかなりそうだ。
最悪な事に今となっては片割れに起こされるのが当たり前になっていて、毎朝あの吐き気を催すほど甘い声で、唯一1人になれる時間の終わりを告げられるのだ。
僅かに目を開けると、眼前に広がる俺と良く似た顔の男の姿。左目を覆うようにして主張するケロイドは、何年経っても痛々しくて見てられない。
「おはよう、A」
砂糖を煮詰めたような甘い声だった。
色違いの瞳で俺の双眸を捉え、形の良い薄い唇が静かに俺の顔に迫ってくる。反射で避けようとする俺の後頭部を優しく掴み、有無を言わせまいと合わせられた唇の嫌悪感に全身の毛が粟立つ。それが俺の1日の始まり方になっていた。
仕事にはあれから行っていない。
否、行けなくなったと言った方が正しい。片割れの家に押し込まれた時に一緒に付けられたGPSが、決してこの家から外に出ることを許さない。一度それが家の外に出てしまえば、すぐに片割れの携帯に連絡が入るようプログラムされているらしい。
その上会社にはご丁寧に片割れが体の良い理由をつけて退職させたのだ。
信じられなかった。そこまでして俺を縛る片割れにも、片割れの言葉を鵜呑みにして、俺に何の確認も取らず退職扱いした事にも。
それほど世間がヒーローをいかに聖人君子だと思い込んでいるのかが窺える。
ほぼ監禁とも言えるこの生活を終わらせる糸口はなにもなかった。家に出ることもできなければ、外部に連絡する手段もない。頼みの綱の姉さん達は、片割れに携帯を奪い取られてしまった為、声を聞くことすら叶わない。
俺の言葉を信じてくれる人はもう、俺によく似た片割れしかいないのだ。
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佐波(プロフ) - りら(元:白紙)さん» コメントありがとうございます…！不穏な雰囲気が出るよう比喩など工夫していたのでとても嬉しいです☺︎まだまだ稚拙な文章ではありますが、これからも拙作をよろしくお願い致します。 (2021年12月21日 7時) (
レス) @page21 id: c20f609501 (このIDを非表示/違反報告)
りら(元:白紙)(プロフ) - 佐波様の表現がとても好きで男主の首を真綿で締めていくような背がひんやりする雰囲気がとても好きです。私も字書きの端くれとして勉強させて頂きます。 (2021年12月21日 2時) (レス) id: 8a3a88a56b (このIDを非表示/違反報告)
佐波(プロフ) - 無名(ナナ)さん» コメントありがとうございます…！実際に感想をいただけてとても嬉しいです☺︎不定期な更新ではありますが、これからも何卒よろしくお願い致します。 (2021年10月8日 22時) (レス) @page15 id: af903ba2ba (このIDを非表示/違反報告)
無名(ナナ)(プロフ) - なんで...評価は1回しか押せないんだ...5万回くらい右側の星押してます、更新頑張ってください (2021年10月8日 11時) (レス) @page15 id: b78d925f50 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：佐波 | 作成日時：2021年9月23日 11時
