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「あかんの?

俺はずっと、行きたいって思うてたよ」







あまりにも真剣な目に私は言葉を失った


嫌だったわけじゃない


私だって1秒たりとも彼を忘れた事などなかった


会いたくて、抱き締めてほしくて、


落ち着きが欲しくて、流れ星が恋しかった


ただ、岡山に私達が行ったところでその先何処へ向かえば良いのかはわからない


まるで地図のない旅だ、正直不安で仕方がなかった


それを察してくれたのか、大ちゃんは柔らかい笑みを浮かべて言葉を続けた







「ごめん、Aには言うてなかってんけど、

俺先生に卒業前も卒業してからも何回も頭下げ行っててさ

個人情報やからっていつも門前払いされとったけど、

この間ようやく何処の地域に引っ越したかまでは、

独り言みたいに教えてくれたんよね」







それは希望の見えた未来の話であり、


私達と流れ星を繋ぐ、一つの糸となった


いるかもしれない、会えるかもしれないと、


きっと彼はずっと、諦めずに私よりもその背中を追い続けていたのだろう


大阪から岡山へと流れた星は携帯電話を捨てたのか、


大ちゃんが電話を掛けても、メールを送っても、


電波の届かない所に置き去りにされており、届けることすら出来なかった


それはいつしか現在使われていない電話番号となり、大ちゃんは絶望していたが、


この話を私に伝えた時は、


夢を語る子供のようにイキイキとしていた








大丈夫、大丈夫


きっとそこに会いたい人がいる


「久しぶり」って三人で笑って、


三人で大阪に帰ってこれるはず


そしたら行くんだ、夢だった遊園地へ








私も大ちゃんも希望しかなかった


動揺していた私も、気がつけば大ちゃんと一緒に夢見てワクワクしていた


この先の事など何も考えずに、


ただ目の前に再び引かれた糸に願いを込めて、


流れ星を掴もうと必死になっていた


ただそれだけだったのに


ああ、どうして、


どうして神様はいつも、







「A?」







はっとして、大きく息を吐く


ずっと息を止めていたのか、苦しさを感じて慌てて喉に流し込んだのは冷めきったカフェオレだった


記憶と現実の境目にいる自分に眩暈がして、


「ごめん、考え事」と、現実の大ちゃんに笑ってみせた


少しの沈黙


大学三年生の大ちゃんは「そっか」と呟いて、


ため息を吐きながら天井を見つめた


心臓が締まり、また息が出来なくなる






ああ、どうして神様はいつも、私達に意地悪なのだろう








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桃子(プロフ) - 桜さんの作品が何年経っても大好きです。いつかまた藤井くんに会えたら嬉しいです。 (9月28日 22時) (レス) @page9 id: 775802b2fa (このIDを非表示/違反報告)
セミマル(プロフ) - 初めまして。素敵な作品をありがとうございます。私も更新楽しみにしています。 (2023年4月10日 23時) (レス) id: 039923312a (このIDを非表示/違反報告)
きい - 初めまして。いつか続きが更新されることを願っています。 (2022年8月22日 7時) (レス) id: a320cf1b5c (このIDを非表示/違反報告)
ここ - はじめまして。この物語を止めてしまうのは惜しすぎます。私たちにとって価値ある作品です。私は何年も待ちます。 (2022年4月1日 8時) (レス) @page9 id: 4cb3a32bb7 (このIDを非表示/違反報告)
#moo(プロフ) - 初めまして。いつか続きが読める日まで、私も頑張ります。 (2022年2月24日 8時) (レス) @page9 id: 209c66b3b9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2017年8月14日 23時

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