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「ばあちゃんがな、アンタは陸上の方が似合うてたって言うねん」
今年の梅雨は終わりが早かった
それは本当に、空に掛かる虹のように呆気なく
雨が降っていた記憶は、あまりない
それなのに傘を持っていかなかった時に限って雲行きが怪しくなるから厄介だった
しかし用心深い大ちゃんは必ず背負っているリュックの中に折りたたみ傘を入れているから、
私は雨に濡れたことがないのだろう
今だってそうだ
もう蝉が鳴いている暑い夏なのに、雨は突然私達に襲い掛かる
「私もそう思うけどね」
「そうなんや
Aに言われるのは結構、この辺痛んでまうな」
大ちゃんは私の顔は一切見ずに、針の如く雨を降り注ぐ灰色の空を見上げながら左手で胸元を押さえた
彼の顔つきはみるみる大人びていく
身長は相変わらず小さいけれど、彼は私よりもずっと大人になった
高校時代が懐かしいね、なんて事まで話すようになったが、
私達が高校を卒業してから、まだ三年しか経っていないらしい
「でも俺、後悔してへんよ」
「……そっか」
「…懐かしいなあ、ハードルで泣いてた自分が」
いつの間にか、私達はお酒を飲める年齢になっていた
大学三年生になった夏の日
いつもみたいに大ちゃんが折りたたみ傘を取り出して、
私がその隣に立つのを待っている
「はよ帰ろう、雨どんどん強くなりそう」という彼の言葉通り、
帰路を進めば進むほど、互いの声が遠くなっていった
傘に打ち付けられた激しい雨の音
濡れた道路を急かすように走り去る車の音
雨の日は、何故だかクラクションを鳴らす人が多い気がするなって、
大ちゃんは左肩を濡らしながら笑っている
「大ちゃん、もうアキラって呼ばれなくなったんやね」
「……いや、その時だけやと思う
だってな昨日、ばあちゃん自分が誰なのかもわからないみたいにさ、
大嫌いだったはずのショートケーキを美味しい美味しい言うて食べとったんやで」
そんな祖母が突然大ちゃんに向かって言葉を送ったものだから、
彼も驚き、私に打ち明けてくれたのだろう
陸上の方が似合っていると言われてしまった事を
「ケーキの話したら食べたくなってきたな、どっか寄っていかん？」
「はよ帰るんやないの？」
「ええやん、屋内なんやし」
「あかん？」と、可愛らしく首を傾げながら歩く彼の背中には、
一本の竹刀が入った袋が揺れている
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桃子(プロフ) - 桜さんの作品が何年経っても大好きです。いつかまた藤井くんに会えたら嬉しいです。 (9月28日 22時) (
レス) @page9 id: 775802b2fa (このIDを非表示/違反報告)
セミマル(プロフ) - 初めまして。素敵な作品をありがとうございます。私も更新楽しみにしています。 (2023年4月10日 23時) (レス) id: 039923312a (このIDを非表示/違反報告)
きい - 初めまして。いつか続きが更新されることを願っています。 (2022年8月22日 7時) (レス) id: a320cf1b5c (このIDを非表示/違反報告)
ここ - はじめまして。この物語を止めてしまうのは惜しすぎます。私たちにとって価値ある作品です。私は何年も待ちます。 (2022年4月1日 8時) (レス) @page9 id: 4cb3a32bb7 (このIDを非表示/違反報告)
#moo(プロフ) - 初めまして。いつか続きが読める日まで、私も頑張ります。 (2022年2月24日 8時) (レス) @page9 id: 209c66b3b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：桜
| 作成日時：2017年8月14日 23時
