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朝、彼の腕の中で目を覚まし「おはよう」と言葉を掛けると
この日は特別寒く、肌のぬくもりを求めて彼は言葉の代わりに抱き締める腕に力を込める
それでも私は学校に行かなくてはならない
腕の中から離れ一階へ向かおうとしても布団から出られないのは彼が私の腕を掴んで離さないから
寝起きだから力が強いわけでもない
それでもその手を剥がす事は出来なくて、
「朝ごはん食べる？」と出来るだけ優しく尋ねても首を横に振る藤井くん
枕に顔をすり寄せて鼻を啜っている
「ごめんね藤井くん、私行かなきゃ」
「…何時に帰ってきますか、」
「学校終わったらすぐ帰ってくるよ」
「…ん、いってらっしゃい」
その朝彼は一階に下りてくることなく、久しぶりに藤井くんのいない食卓
それは朝だけの事ではなかった
学校が終わり早足に帰宅した私の目に止まったのはテーブルの上に置かれた二つのおにぎり
元気になりますように と願いを込めて握った今朝の私はとても純粋な子だったのだろう
オレンジ色に染まるリビングには秒針の音だけが響いている
まるで誰もいないと感じるほどに人気のない我が家
震える手で部屋に入ると見えた彼の姿に息が漏れる
それは安堵の胸か、それとも苦しみからか
彼はクッションを抱き締めながら魂が抜けたように一点を見つめていて、
ベッドに頭を預けて床に座る藤井くんの横顔に「ただいま」と声を掛けても瞳すら動かさない
聞こえていないのか、聞く気もないのか、
きっと何も聞こえない程に彼は今一人で暗闇を彷徨っているのだろう
ああ、彼を一人にしてはいけなかったんだ
抜け殻だ
彼は彼自身の言葉通り、いよいよ抜け殻そのものになってしまった
部屋の端にあったはずの剣道着は形を崩して部屋の真ん中に虚しく落ちている
肌寒さを感じるのは部屋の窓が開いているからだろう
白いカーテンが冷たい冬風に揺れ、私の頬を掠めたその冷たさに私は喉を鳴らした
「藤井くん…？」
「……」
「…なんでッ、」
いつから彼は窓を開けていたのか、なぜ窓を開けていたのか
長袖のTシャツ一枚にスウェットを履いているだけの藤井くん
慌てて窓を閉め駆け寄ると気づく青白い顔に冷たい手
抱き寄せれば私に身を任せてぐったりとする彼からは生命力を感じない
それでも小さく聞こえる心音に私は静かに涙を零した
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くまりんご(プロフ) - 84話の流星と大ちゃんのくだりがとても泣けました、桜さんが書く世界観がとても好きです！！これからも頑張ってください！ (2017年8月16日 23時) (
レス) id: e2ac88fff8 (このIDを非表示/違反報告)
しほ - お話読ませていただきました！今までなったことないような、なんとも言えない気持ちになり、何度も何度も読み返してしまいました。これからも応援してます！ (2017年4月30日 12時) (レス) id: 3dfa1a26ca (このIDを非表示/違反報告)
フレンズ - この作品、すごく好きです！ 更新頑張ってください！ (2017年4月20日 14時) (レス) id: 1d5f3d8302 (このIDを非表示/違反報告)
CIEL - 更新、待っていました。流星くんと大吾くんの笑顔と涙が重なって…言葉にできないけれど、頭の中に残っています。これからも、楽しみに待っています。 (2017年3月9日 23時) (レス) id: ebf57fe415 (このIDを非表示/違反報告)
のんぴー(プロフ) - 桜さん、のんぴーです。受験が終わり久しぶりに読ませていただきました。私の持っている言葉ではうまく感想が伝えられません。これからも応援してます。 (2017年3月8日 23時) (レス) id: 4a04a2b822 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：桜
| 作成日時：2016年9月20日 19時
