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立ったまま笑い転げている照史さんを睨み付ければ、へらへらとしながら彼は両手を合わせてきて、
呆れたように私が顔を背けると「怒ってる?」と不安げに聞いてくる
何も答えずに頰を震わせた私
寂しそうに眉を下げる照史さんの姿が横目に見え、ほんの少し胸がキュッとした
初めての感覚に戸惑いながら「…ごめん」と小さくなった彼に私は何も言わず首を横に振る
「もう驚かせないでください」
「やってそんなビビるとは思わへんかったもん…」
「都会育ちが虫苦手じゃないわけないでしょう、それに蝉は…、」
「蝉は特別嫌いやって?」
また彼は少しだけ寂しそうに眉を下げ、
黒い髪はふわふわとしていて、少し目にかかるくらいの前髪を触り視線を落とす
綺麗なその横顔を見つめていれば、彼は視線の先を指差してクスッと笑う
「…なあ見てみ、俺が投げた抜け殻から出てきた子」
あまりにその声が優しくて、その横顔が優しくて、
彼の隣に腰を下ろし私もその視線の先を見つめてみた
木の低い位置にいたのはまだ体の白い蝉
白い体に浮かび上がるまん丸な黒い目に、鳴かない大人しいその蝉に私は初めて“可愛い”と思った
黙り込んでその蝉を見つめていれば、すぐ隣にいる照史さんが蝉に目を向けたまま語り出す
「綺麗やろ?羽化したてはまだ体の表面も柔らかくてな、白くて綺麗なんやけど触ったらあかんねん
触ってもうたらコイツ、明日か明後日には死んでまう
まだ体が出来てないねん、やから俺たち人間が触れてしまったところがそのまま変形して、
コイツは上手く身体が出来なくて、地上に這い上がってようやく殻を破れたのにそのまま二日三日で死んでまうんや」
その言葉に思わず隣に顔を向ければ彼も私に顔を向け、拳一つ分くらいのその距離に私が目を見開いても、
照史さんは気にすることなく綺麗な目で私を見つめた
「知らんかった?」と聞く彼の目は純粋で、
年上なのに、まるで心は少年のような、
時の流れを感じさせない照史さんに私はドクドクと鼓動を早めた
「…蝉にも詳しいんですね、照史さん」
「はははっ敬語もさん付けもやめてや気持ち悪い、
蝉にもって何?…あっ藤井家の構造とか知ってるから?」
こくっと頷けばまた彼は楽しそうに笑う
相変わらず近い距離
くしゃっとさせた彼の眩しい笑顔に、私は少し目を細めた
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シュマリ(プロフ) - 凄く素敵なお話でした。他の作品も見てみようと思いました。これからも頑張ってください! (2018年1月31日 14時) (レス) id: 761a4bf70b (このIDを非表示/違反報告)
Miwest0423(プロフ) - 読み終わり、泣いちゃいました。素敵なお話ありがとうございました。 (2017年10月10日 3時) (レス) id: 6b0e901969 (このIDを非表示/違反報告)
フレンズ - 友人に勧められて読んでみた蝉の記憶ですが、すごく面白かったです! 素晴らしい作品に出会えました! 違う作品も頑張って下さい!応援してます! (2017年4月20日 17時) (レス) id: 1d5f3d8302 (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - ちかこさん» 返信が遅れてしまい申し訳ありません、素敵なお言葉をたくさんありがとうございます、素人ながらに物語に込めた想いがちかこさんに伝わっていてとても嬉しいです、私の作品が勇気に繋がった事はとても誇らしいです…見つけてくださり、本当にありがとうございました (2017年2月2日 20時) (レス) id: 3a95ea47e4 (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - かんなさん» 返信が遅れてしまい申し訳ありません、そう言っていただけて光栄です、蝉の記憶を見つけていただき、ご愛読いただきありがとうございました、他の作品はもっと長いものも多いので、お時間のある時に気軽に手を伸ばしていただけたらなと思います (2017年2月2日 20時) (レス) id: 3a95ea47e4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桜 | 作成日時:2016年8月7日 1時