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「俺一度だけ東京に行った事があるんや
小2の頃やったかな、俺が川遊びしたいとか言うからおかんと東京きてまで川に行った」
川の流れを背中で感じた
川の中、濡れて重たくなる服にキツく抱き締められる体
照史くんはそのまま言葉を続ける
「…そしたらな、俺と同い年くらいの女の子が流されててん
誰も助けようとせん、土手から どうするん なんて傍観してよ
なんでや、なんで誰も助けへんねん
濡れるのが嫌だから?東京の川は汚いから?
だからってあの子の事見捨てんのかよ、あの子の事はどうだっていいのかよッ
って、…俺悔しかったんや、おかんがやめなさいって叫んでたのもちゃんと聞こえてたで
けど木の枝に引っ掛かってぐったりしてるその子見たら放っておけへんやんか
今助けるからな、俺が助けたるからって、
…あの子、まだ幼かった時のキミやんな
俺がキミを土手に引き上げた、そうやんな、
なあ、そうだよなA」
自分の頰に生暖かい雫が伝うのを感じた
一つや二つだけじゃない、幾度となく筋を通し、
それに気付いた照史くんはキツく抱き締めた体のまま左手で私の後ろ髪に触れ、彼の首に顔を埋めるように優しく引き寄せてくれる
「人間って不思議よな、まだ小2やのにどこからそんな力湧いてきたんってくらいスムーズに助けられてん
…覚えてる、すぐに目を覚ましたキミが言うたんや
ありがとうって、綺麗に笑うて言うてくれたんや
覚えてんでA、俺平地で蝉の抜け殻投げてAに怒られてん
ここに初めて連れて来た時も、水をかけて怒られたな
夜やのに向日葵畑に入ろうとしてた、口吻を教えてくれた家出ちゃんも、俺覚えてんで」
体を離し、私の頰を両手で包み込んでくれた照史くん
「ほら、ちゃんと泣けたやろ」って、彼も目を真っ赤にさせて鼻を啜っている
きっと彼はワザと私を川に投げたのだろう
「怖い思いさせてごめんな」と、止まらない涙を何度も拭ってくれた
「…川に投げるなんて酷い」
「他に泣き方思い出させる方法思いつかへんかったんやもん…けど大丈夫、Aが溺れたって俺が何度だって助けたる、守ったるよ
やから存分に泣け、笑え、
すぐに忘れる俺を怒ってや、悲しんでや
俺何度だってAを思い出してみせるからさ」
そう言ってまた彼は私をキツく抱き締めた
「A、A、」と、大切に何度もその名前を呼んで、
彼は嬉しそうに笑うんだ
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シュマリ(プロフ) - 凄く素敵なお話でした。他の作品も見てみようと思いました。これからも頑張ってください! (2018年1月31日 14時) (レス) id: 761a4bf70b (このIDを非表示/違反報告)
Miwest0423(プロフ) - 読み終わり、泣いちゃいました。素敵なお話ありがとうございました。 (2017年10月10日 3時) (レス) id: 6b0e901969 (このIDを非表示/違反報告)
フレンズ - 友人に勧められて読んでみた蝉の記憶ですが、すごく面白かったです! 素晴らしい作品に出会えました! 違う作品も頑張って下さい!応援してます! (2017年4月20日 17時) (レス) id: 1d5f3d8302 (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - ちかこさん» 返信が遅れてしまい申し訳ありません、素敵なお言葉をたくさんありがとうございます、素人ながらに物語に込めた想いがちかこさんに伝わっていてとても嬉しいです、私の作品が勇気に繋がった事はとても誇らしいです…見つけてくださり、本当にありがとうございました (2017年2月2日 20時) (レス) id: 3a95ea47e4 (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - かんなさん» 返信が遅れてしまい申し訳ありません、そう言っていただけて光栄です、蝉の記憶を見つけていただき、ご愛読いただきありがとうございました、他の作品はもっと長いものも多いので、お時間のある時に気軽に手を伸ばしていただけたらなと思います (2017年2月2日 20時) (レス) id: 3a95ea47e4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桜 | 作成日時:2016年8月7日 1時