◇122 ページ42
.
「Aちゃんはどうなん、
本当の花言葉として 春紫苑 はおった?」
私も彼も同じだった
彼女の、彼の本当の気持ちを聞く事をできぬままその存在を失った
そこに愛はあったのか、もう答えを聞く事もできなくて
少しの沈黙、私は何も言わずに首を横に振った
「…どうして?」
「私もそんな存在を亡くしました
最期に聞いたんです、私の事一日でも、一瞬でも愛してくれたことはありますかって、
…けど答えを聞く前に亡くなってしまいました
だからね、愛し合ってたのかわからないんです
本当に私の事を見ていてくれたのかわからないんです
だから私も、“追想の恋” なんだと思います」
うんうんと頷いて「仲間やなぁ」とやっぱり彼は悲しげに笑う
「聞いてくれてありがとうな」と立ち上がった小瀧さんは空っぽになった缶コーヒーを二つとも捨ててくれて、
二人でCDショップへと戻っていった
その間も彼はずっと話していて、
話題は春紫苑の事ではなく、藤井さんの事
「見た目と中身が合ってへんねん」と数々の天然エピソードを聞かせてくれて、
悲しい話から明るい話、彼は先ほどよりも生き生きとしていた
あのあとすぐに仕事へ戻った小瀧さん
久しぶりに会えたことが余程嬉しいかったのか、彼が好きなアーティストの曲を口ずさむ藤井さんに私はクスクスと笑う
あっという間にそんな勤務時間も過ぎ、退勤の頃には大毅くんがお店に来て、
店長は「お迎え来てるやん、はよ帰り」と5分早めに上がらせてくれた
「…あれ、お疲れ様」
「店長が上がっていいって」
「はははっ相変わらずやなぁ」
ショッピングモールを出れば何も言わずに絡められる指
三月の中旬、桜はまだ咲いていない
夕方は少し肌寒くなり冷たい風に私は少し肩を上げた
そんな私に笑いながらも「はよ帰ろうか」と手にキュッと力を込めて握り直す大毅くん
今日も彼は私にオムレツを作ってくれるのだろう
「あと少しやからな〜」
「ははっ大丈夫だよ、大毅くんの手あったかい」
「何それ、どこで覚えたん」
「ん…?」
「…いやもうええわ、はいっ飴ちゃん舐めとき」
大毅くんは少し頰を掻いて笑い、ポケットから飴玉を取り差し出してくれた
変わらない、彼の習慣
「ありがとう」と受け取って舌に転がるのは“イチゴ味の飴玉”
大毅くんも口にそれを放り込み、嬉しそうに笑みを浮かべた
.
1756人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちま - 話を読み進める度にボロボロ泣きながら嗚咽だしながら読んでいました。たくさん、たくさん言葉にしたいんですけど言葉にならなくて。幸せに最後まで生きていけることを星を見ながら願っています。大好きです。ぜひとも映像で見たい。ありがとうございます。 (1月2日 18時) (レス) @page48 id: 1ece5748d4 (このIDを非表示/違反報告)
ふじかえる(プロフ) - いなくなってしまうお話。得意ではないので避けてきましたが、あまりにも儚くて綺麗で切なくて気づけばぼろぼろと泣きながら全て読み終えました。本当に素敵なお話をありがとうございます。きっとまた戻ってきます。 (10月19日 2時) (レス) @page48 id: 6709ad7050 (このIDを非表示/違反報告)
yuno6955(プロフ) - こうやって占ツクのお話に感想を書くのは初めてです。本当に、涙が止まりませんでした。私は本を読むのがあまり好きではありません。どうせこんなのあるわけない、ただのフィクションだと思っているから。でも確実にこのお話の中に私は生きていました。本当にありがとう (10月5日 12時) (レス) @page48 id: 52a4e3e1ad (このIDを非表示/違反報告)
あや - 続き)私は、Mixed JuiceのLIVEに行った時、色のない目をしている濱ちゃんを見た気がします。それはたまたまそう見えたのかはわからないですが、この作品を思い出しました。存在するけど、いついなくなってしまうかわからない彼を見るといつも胸が苦しくなります。 (2022年8月15日 20時) (レス) id: f8bf0b205c (このIDを非表示/違反報告)
あや - この作品を読むのはこれで4回目になります。定期的に、このお話を読みたくなります。そして、毎回同じところで大号泣。読み終わった後は、苦しくなります。自分にもこんな大切に思える人がいたらいいなと毎回思います。続きへ (2022年8月15日 20時) (レス) id: f8bf0b205c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:桜 | 作成日時:2016年7月15日 21時