色 々 顔 《赤》

◆30 ページ30

.






シャーペンを持つ手、私の指に絡ませるからカタッと音を立ててシャーペンは転がる


見かけによらず男らしく大きな手


意識は全てそこにいく








「…重岡くん、」


「せんせ、明日も来てくれますか、

俺はずっとおります、…ずっと待ってます」


「私は…」


「いつも通りじゃあ、…もうあかんの？

俺が好きになったから？伝えてもうたら、もう俺はせんせーとおったらあかんの？

せんせ、俺さ？…俺、そんなロボットみたいに笑われへんよ。
…せんせーに避けられたらさ、俺笑えへん」








悲しいんだね


重岡くんは私に指を絡めたまま、机に伏せてしまった


右腕に頭を乗せて、彼の髪が僅かに私の左腕に触れるのがくすぐったい


私も重岡くんも、寂しい人


もう避けるつもりだったのに、そんな事、


こんな彼を見てしまっては出来るはずがなかった








「…わかった、私も来るよ、

大丈夫、必ずここに来るから」


「…ほんまに？」


「うん、約束する」


「…うん、ありがとう、

ありがとうせんせ、ありがとう」









体を起こして、何度も私に「ありがとう」と言う


指を解いた重岡くん、熱が逃げていくようなその指を眺めていたら、


重岡くんの人差し指が私の瞼に触れ、優しく手のひらが目を覆った


彼の手により、左目は真っ暗で何も見えない








「昨日、俺家にいました」


「…凄いね、どうして気付いちゃうかな」


「腫れてるねん、…なんで来なかったんですか」


「…求めすぎたらダメだと思ったの」


「…俺言うたやろ、利用してええって」








思った通り、重岡くんはすぐに気づいてくれる


そして自分の事のように悲しんでくれる


眉間に皺を寄せて苦しそうに、私の気持ちをわかってくれる








「せんせ、俺苦しくないで、

だからさ、せんせーも一人で苦しまないで、

俺が忘れさせてあげます、俺がせんせーを楽にしてあげます

せんせ、俺何度でも言うからさ、

苦しくなったら、悲しくなったら…寂しくなったら俺のところに来てください、

せんせ？せんせーな、きっともうすぐ俺を求めるで

…これは最後の忠告です

もしその時がきたら、一人で泣かないでください、

俺はずっとあそこにおるから」









重岡くんのその言葉に、きっと私は初めて頷いた


嬉しそうに笑う重岡くん


いつも通り、何があっても変わらず接してくれる


だから私も変わらない


そうだ、それが私達なんだ








.

◆31→←◆29

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す