今度は、私が。/となりの坂田。 By.星奈 ふゆ ページ10
「……坂田、この問い間違ってる」
「え、うそ、どこ？」
夕暮れ、オレンジ色に染まる教室。
机の上に広げられたノートの一部をペンで指せば、目の前のシルエットから声が上がる。
丁度解いていた問題が片付いたところだったのだろう。
勉強相手ーー坂田は、すぐにふっと顔を上げ、私が指した問いに向き直った。
「ここ。多分使ってる公式が違う」
「ん……あー、ほんまや。ありがと」
軽くヒントを渡せば、少しの間考え込んだ後、納得の声と共に手を動かし始める坂田。
カツカツ、コツコツ。
シャー芯がノートとぶつかる音だけが微かに響く教室の中、私は頬杖をついて窓の外を見つめた。
グラウンドから聞こえてくるのは、運動部の快活さ溢れる掛け声と様々なボールの音。
その合間を縫って、金管楽器の高らかな音色が鳴り響く。
受験生である私たちは、もう部活には所属していないけれど。
「青春」を感じるこの時間が、嫌いじゃない。
「A」
「……ん、なに？」
「捗ってないやん」
名前を呼ばれ、目だけでそちらを向けば、少し悪戯な視線と糸が絡む。
確かに、坂田のノートに比べて私が広げたノートは比較的白いままだった。
「んー……」と曖昧な声を漏らして、シャーペンをくるりと一回転。
集中出来ていないのは、私自身が一番良く分かっている。
「なんか、ちょっと……ね」
「勉強しよーって誘ってきたんAなのに」
「あはは、ごめん」
ーーねぇ、教室残って勉強会しようよ。
幼馴染である坂田をそう誘ったのは、ついさっき、一時間ほど前のことだった。
特にこれといった理由はない。
勉強したいけど、家では集中できない。
けれど、勉強後に暗い中をひとりで帰るのは怖いし、親も心配する。
だったら、帰る方向が同じである幼馴染を頼らせてもらおう。
強いて言うのなら、それくらいの理由だ。
たったそれだけだというのに、坂田は嫌な顔ひとつせずに申し出を受け入れてくれた。
(ほんと、変わらないんだから)
昔から、困った人には迷いなく手を差し伸べる人だった。
誰にでも分け隔てなく優しい。
人によって態度を変えたりしなくて、いつも自然体。
それは、高校３年になった今でも変わっていない。
目の前で必死にノートにペンを走らせるお人好しをみて、私はぽろりと笑みを零した。
どうか、坂田にはずっとそのままでいて欲しい。
心優しいお人好しな坂田が、私は幼馴染として誇らしいから。
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ゆら - わー！私、丁度受験終わったところなんです(´TωT｀) (2021年5月3日 12時) (
レス) id: 178b398402 (このIDを非表示/違反報告)
あーやんの向日葵畑(プロフ) - こちらもすべて見ました、個人的にaftertheRainが好きでとても素敵なお話がたくさんありました！どの作者様の思いが込められていて幸せな気持ちになりました、神企画の名にふさわしいものですね(*´艸｀*素敵な作品をありがとうございました！ (2020年3月15日 21時) (レス) id: 6889ca0c35 (このIDを非表示/違反報告)
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