【歌い手】START！Ver,B【大型コラボ】 (ページ25)

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【天月】桜の木の下で/ぐりこページ25

初めて、彼に出会ったのは何年前のことだろうか。

それは高校の合格発表の日だった。
3月に入ってからもコートとマフラーが手放せないほどの寒い日が続いていたのに、その日だけ春のあたたかさを感じる日だったのを覚えている。

大事な日に限って寝坊をかました私は、発表時間をとうに過ぎてから学校に行ったため、すでに人はほとんどいなかった。

校門前のまだ蕾のままの桜の木の下には、合格者の紙が貼り出された掲示板が置かれている。その前には、茶色がかった髪の知らない中学校の制服を着ている男の子が1人立っていた。

自分も同じように彼の横に並び、自分の受験番号を探す。

見つけた。合格していた。

純粋な嬉しさに少しだけ気持ちが浮かれる。ふと横を見ると、まだ先ほどの男の子が立っていた。彼の手に握りしめられた紙に記された受験番号は、目の前の掲示板には書かれていなかった。

彼は静かに俯いて泣いていた。

不謹慎なことだと分かっていたが、その涙はあまりにもきれいで、繊細で、思わず見入ってしまう程だった。

そしてなぜか、浮かれた気持ちが中途半端に残ったまま、胸が締め付けられるような苦しさに襲われた。

それからずっと、あの男の子の顔が頭に残って消えずに、中学の卒業式を終えいつのまにか春休みが過ぎ去り入学式の日となっていた。

あの時は蕾だった桜の木はこの間満開を迎え、今は大量の花びらが吹雪のように降っている。

あの彼は結局どの高校に行ったんだろう。
不意にそんなことを思うと、また彼の顔が浮かんだ。

校門の前、あの時掲示板が置かれていた桜の木の下には"入学式"の看板があって、ひらひらと桜の花びらが舞っている。

多くの新入生が校舎へと入っていく中、1人だけそこに立ち止まっている生徒がいた。
この高校の真新しいブレザーを身にまとった彼は、スマホを桜の木にかざして写真を撮っていた。

茶色がかった髪に桜の花びらが1枚舞い降りて乗っかった。そのことに彼は気づいていないようだ。

教えてあげようと思い、声をかけようと近づく。覗き込んで彼の顔を目にした時、ずっと頭に残ったままだった姿と重なって思わず息を飲んだ。

それは、あの時ここで泣いていた彼だった。