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悲しむのはおれじゃないくせに。都合のいいやつで本当に嫌になる。Aに嫌われるのも時間の問題だよ。
「……わたしが『帰ってきて』って言ったらどうする？」
「えっ？そ、そりゃあ急いで帰るけど…」
「ふふっ。なら一緒だよ。……わたしも二人っきりが良かったらきっと連絡しちゃうもん」
「……でも今までしてなくない？」
「それは……。まふくんの交友関係にまで口出し出来ないでしょ？」
傍に居るのに、一番遠い気がして。
それがいつか自然に終わってしまうんじゃないかって怖がっていた。
「でももっとわがまま言ってもいいと思うよ？」
「それはっ、まふくんもでしょ？」
欲張りになれなかった恋が、いつの間にか違えて、道を外れようとしてしまっていたね。
「……ね、A。ごめんね、」
本当はデートもたくさんしたいよね。ずっと一人なんて、嫌だよね。ごめん、ごめんね。『歌い手』としての道を選んでごめんね。
零れ落ちる涙が頬を通り顎に集まった雫が地面で弾ける。
「なかないで、」
握っていた手を離してぎゅっと小さな身体が僕を包み込む。Aだって泣いている癖に、悲しみを押し殺してまで強がるのはきっと僕のせい。
「わたしは、まふくんのことすきだから」
「ぅん、」
「歌うまふくんも、皆と楽しそうにしているまふくんも、みんなみんなすきだから」
「う、ん」
だからお願い。
静まる入り江で世界が二人っきりならどれほど良かったかを考える。抱きしめてくれる彼女の頭を撫でれば、溜まっていた感情を吐き出すように泣き出す彼女。
「なかないで、よ」
「あ、ははっ。……泣いてるのはAもじゃん」
都合良く行かない世界が憎いね。
二人の恋を邪魔する世界が憎いね。
「僕はいつだってAを一番に思ってるよ」
こんな息苦しい世界で君という救いを求めてしまう。もう少し、もう少しだけ。
現実に帰るまでもう少しだけ【はじまり】に戻ったような感覚の中でAを感じていたい。
♢♦♢
まふまふさんの歌は私にとって【はじまり】です。
音を聴いても美しく目で見ても雅で繊細な歌がこんな時に生まれるのではないかなという妄想で書きました。
そんな【はじまり】から少し出遅れて出発する人生を歩んで欲しい。世間なんて気にせずに自分を貫くあの御方が、どうか生きやすい世界になりますように。
♢♦♢
今日は少し二人っきりで世界からおいてけぼり。
執筆者 : こんぺいとう。
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