＊ ページ13
全身の痛みで目を覚ます。見覚えのない天井に、消毒液の匂い。ここはどこだろう。
どうしてここにいるのか、思い出そうとしてもモヤがかかったように何も思い出せない。
ふと、手が握られていることに気が付いた。そちらの方に目を向けると誰かがベッドに突っ伏すような体勢で眠っていた。
しばらく見つめていると、眠っていた人が起き上がってこちらを向いて目が合った。
綺麗な白髪の男の人だ。
私を見たとたんその男性の表情が明るくなった。
「A！
よかった、目が覚めたんだね。
僕先生呼んでくるから」
「あの、すみません。貴方は誰ですか？」
彼には申し訳ないけど、彼の言葉をさえぎって疑問を口にする。
「え？」
その疑問に答えてくれはしなかったけど、驚愕した表情を浮かべた目の前の彼。その表情から察するに、きっと私と彼は親しい間柄だったのだろう。
「あ、すみません。なにも思い出せなくて......
ここは病院ですか？そうだとしたらどうして私はここにいるんですか？」
「えっと、ここは病院で、Aがここにいるのは事故にあって運ばれたからで......」
徐々に小さくなる彼の声。心配になって顔を見れば彼の頬には涙が伝っていた。
「大丈夫ですか？」
思わず聞いてしまったけど、大丈夫なはずないよね。そんな表情をさせているのは、きっと私のせい。どうして忘れてしまったんだろう。
「ごめん、大丈夫だよ。
とりあえず、先生呼んでくるね」
「あ、ちょっと待って！」
彼は私の静止の言葉も聞かずに病室を飛び出していった。
*****
彼が飛び出して行ってしばらくすると、医者らしき人が病室に入ってきて、体調や意識障害がないかの確認をした。記憶がないと正直に伝えたときは苦い顔をしていたけれど。
記憶喪失の原因は頭を強くぶつけたからだろうと言われた。
手際よく全ての確認を終わらせた担当の先生に先ほどの男性のことを尋ねる。
「あぁ、彼は貴女の旦那さんよ」
「そうですか」
だからあの時、あんな表情だったんだ。
「私は戻るけど、他に聞きたいことはある？」
「いえ、教えてくれてありがとうございました」
じゃあね。と言って先生は出て行った。
1人になると、なにも思い出せないことへの不安と忘れてしまった彼への罪悪感で押しつぶされそうになる。
しばらく1人でどうにか記憶を取り戻そうと考えていると、ドアの開く音がした。音のした方に顔を向けると何かを決意したような表情の彼が立っていた。
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