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(…あ、今日いる)
今日は先生の部活勧誘が凄かったとか、校長先生は楽しそうに長々延々積む話をし続けたとか、軽音部の学生が面白そうにイヤホンを片方ずつつけて音楽を聴いている姿を見た。派手なエレキギターが掻き立てた探求心。でもギターやるなんて親がなんというかとか。悩みの種が多い女子は困るばかりです。遅くなった重いカバンを掛け直して。某欲の顔で乗り込む夜19:00夜行バス。最初は人が多いけれど、私の降りる停留所にはまた君と。君と私と車長さんくらいしかいないものだね。降りる所を知らないのに、謎の信頼が芽生える。今日は私、なんだか君に無茶苦茶な気持ちを抱いているらしい。その背中にかけられた重いもの、って言ったら私も抱えているのに。私にかかっているものは、誰かからの期待だ。君のは自分から自分への期待だ。向けられる指の立ち方が真逆だね。窮地に立たされる私には、君みたいに覚悟を決めて一か八かの場所へ落ちるなんてこと。できない小心者だね。君のようにその重いものを抱えた生活は、夢のようだね。今日は、勝手にはけ口にしちゃってます。ごめんね、そういったって君はわかっちゃくれないけどね。今日も重ねた君への嘘。
*
乗る人もいないのに毎回開く前のドア。当然人は乗るわけもなく、君も降りるわけがない。イヤホンからかすかに聞こえた音楽は、甘ったるい恋愛と青春の流行りものだった。いいね、君らしいね。君の人生楽しそうだね。虚ろな頭は被害妄想を並べるだけ。ずっと立っている優等生も疲れちゃって。わざわざ君の隣に座る。君は寝てる、今だけ夢を見させて。
「うらやましいの、君が。」
「私も、君みたいになれたら。良かったのにね。」
勝手に反抗しちゃって。たぬきちゃんを撫でた。自分の手先の冷たさと、君の緩い暖かさと、たぬきちゃんの可愛さで。私がギターを持つきっかけになっちゃえば楽しさだけ。今だけは楽しさだけが生まれるだけ。後ろのバスも開く、車長さんがきっと間違えた。私が降りろ、なんて言われてる気分になった。身をよじらせる、君のほうへと向いた。
前のドアが閉まる、後ろも閉まる、揺れる。私が君へと倒れる。君の緩さが分かる。
君に、捕まった。
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なのなの-VII(プロフ) - 以前から気になっていたのですが、時間がなく、やっと拝見させていただくことができました。私の少ない語彙力では、気持ちを全て伝えることができないことが悔しいです。なので、一言だけ。とても、素晴らしかったです。 (2019年12月9日 23時) (レス) id: 3d69e77dfd (このIDを非表示/違反報告)
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