* ページ37
ああ、やっとだ。
やっと始まるんだ。
開演三分前のアナウンスが流れる。
何度も何度も心ない言葉に傷付けられ、毎晩泣いて、センラさんに励まして貰って、そんな自分が嫌になって。
大好きな、私の息である音楽から離れざるを得なくなって。
歌うことが好きじゃなくなって。
でも、不思議と歌を、音楽を嫌いと思うことはなかった。
「A。…あっ、違う。ライブ中本名言ってしまったらアカンな…。レイ。行くで」
「うん」
たったそれだけ。
それだけで彼には伝わる。
彼からの言葉も伝わる。
今まで全て音楽で吐き出して来て。それにリスナーが、歌い手仲間が、皆が着いて来てくれて、笑ってくれて。
何よりセンラさんからの支えがあって。
活動休止だなんて形を取ると思っていなかったけれど、こうして再スタートできることも思っていなかった。
「それでは、センラさん、レイさん、スタンバイお願いします!」
激しいギターチェーン。
唸る様なベース。
刺すようなドラム。
脳に直接響くシンセサイザー。
お客さんの声と、音楽が一体化して一つの雰囲気を作り上げる。
いつぶりだろう。この感覚。
懐かしくて堪らない。
早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く。
早く私に全てを吐き出させて。
歌で全てを吐き出すだけなんだ。
今までの想いも、辛かったことも、センラさんへの気持ちも、仲間への感謝も、私自信へのけじめも、これからへの決心も。
全てを歌にぶつけて、吐き出すんだ。
嗚呼、ほら、音楽も、歓声も、周りの人の声も段々聞こえなくなって行く。
私とセンラさんだけの世界。
私達がまた、一から作り直すんだ。
一からスタートするんだ。再出発するんだ。
そうしてまた原点に返るんだ。
そうして、私達はステージへと立つ。
驚きと戸惑いを隠せない顔に、涙でぐちゃぐちゃになっている顔、笑顔で笑って受け容れてくれている顔。
私の最後のライブは一年半前のものだ。
そんな一年半前から今日まで待ってくれていた人たちに返すには足りなさ過ぎる。
だから、私のぜんぶ以上を。
両親に、仲間に、幼馴染に、友達に、リスナーに、彼に。
届くように。
私の心からの感謝が届くように。
「レイ、行くで」
初めて、何も聞こえない中で彼の声だけが聞こえた。
私は頷く。
そうして、息を吸って____
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
さあ、これが私達の「始まり」だ。
【センラ】空き缶、スタートライン、そしてゴールテープ/nana→←*
45人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なのなの-VII(プロフ) - 以前から気になっていたのですが、時間がなく、やっと拝見させていただくことができました。私の少ない語彙力では、気持ちを全て伝えることができないことが悔しいです。なので、一言だけ。とても、素晴らしかったです。 (2019年12月9日 23時) (レス) id: 3d69e77dfd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ