検索窓
今日:3 hit、昨日:10 hit、合計:23,301 hit

ページ29

「ゆっくりでええよ」


「ん……」



考え抜いた挙句、俺の出した答えは中庭にあった。

車椅子で初めて向かう中庭は、平日の昼間だからか誰もいなかった。


Aの冷たい手を握りながら、陽のあたる場所へと誘導する。Aが自然光を浴びるのは、10年以上振りなんだとか。


「……あったかいね、坂田くん」


「あったかいなぁ、」



目を細めながら、めいっぱいの笑顔でそう言った。

車椅子から立ち上がり、俺に向かい合って立つA。久しぶりに感じる風が、細い髪を揺らしていた。




.






全てがスローモーションのようだった。


Aは俺の肩に体重を委ね、ふらりと倒れ込んできた。俺は咄嗟に、腰を支える。はらりと綺麗な茶髪が太陽の光にあたり美しく輝く。それとは裏腹にAの呼吸は荒くなる______



「A…!!?」


「さかた…く、……こんな私を、最期まで」


「そんなん言うたらあかん!死ぬな!」



必死に肩を揺すった感覚は、今でもはっきり覚えてる。太陽の暖かさでほんのり温もりを含んだ頬を両手で包んだ。



「だい、すき……」


「起きろ!目覚ませ!!」



最後の願いは、

「キスして」

はっきりと、そう言った。



自然光で弱り、呼吸が浅くなっていくAの肩を包み込み、涙をそっと拭ってやる。長いまつ毛が頬に影を作る。春終わりの気温で手が温かくなる。……彼女にとって、最初で最後の感覚だ。

口付けは、甘かった。

甘くて苦くてしょっぱくて、感情も何もかもぐちゃぐちゃだった。




俺だってさすがに馬鹿じゃない。
自分の恋心には気がついていた。





______皮肉にも、彼女の死は、恋が実った瞬間でもあった。

*→←*



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (42 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
45人がお気に入り
設定タグ:歌い手 , 大型コラボ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

なのなの-VII(プロフ) - 以前から気になっていたのですが、時間がなく、やっと拝見させていただくことができました。私の少ない語彙力では、気持ちを全て伝えることができないことが悔しいです。なので、一言だけ。とても、素晴らしかったです。 (2019年12月9日 23時) (レス) id: 3d69e77dfd (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:作者一同 | 作者ホームページ:***  
作成日時:2019年4月29日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。