【志麻】百年の治世に花束を/冬芽 ページ15
何が始まるというのか。
何を始めることができるのか。
何から始めれば良いのだろう。
───この荒廃で。
農民すらも耕す気にならない、荒れに荒れた土地。陽気なはずの商人たちは店をしまい、裕福なはずの貴族たちは殆どが没落していて命はない。
───まさに終わりのような。
仙人として永くこの国を観てきた私も、流石に滅んだとしか思えなかった。
永く治世してきた王族は殆どが滅び、残ったのは…………遊ぶことが好きな、放蕩王子のみ。
……名は、志麻といったか。
「……これが一つの国が滅ぶ、ということか」
仙人としてはまだまだ新米の私は、国が滅ぶということを初めて目の当たりにした。
王族の権力争いから始まり、終いには民の殆どが死んでいった。
目を少し細めながら王宮の中を歩けば、自分が通った跡が鮮やかに光る。仙人が普段は山にいるのは、庶民を驚かせないためである。
山を下りるのは王に招かれたときと──国が壊れた時。
今回は言わずともしれている。国が壊れたのだ。
──誰かの─それも王族の─手によって。
「この国の仙人さん、やんな」
ハッとした。気配を全く感じさせず、そして仙人の背後に立つもの。そしてこの声。
振り返れば、倒れた柱に優艶な仕草で座る一人の男がいた。
たった一人、生き残った王族。放蕩王子の名前の裏で数々の策を練り、王権争いの頂点に立った男───第五王子、志麻。
軽やかな仕草でそこから飛び降り、汚れた玉座に足を組んで座った。肘をつき、形の良い眉を上げた。
「俺は血で汚れたこの玉座で治世をする気や。この国を立て直す気でいるからな。腐敗していたこの国を立て直すには、全て壊してまた一から作る必要があったからな。
……仙人サン、見守っといてーや?」
優艶に顎を少し上げ、仙をも見下ろすそれは、まさに“絶対王政”という言葉が当てはまっていた。
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なのなの-VII(プロフ) - 以前から気になっていたのですが、時間がなく、やっと拝見させていただくことができました。私の少ない語彙力では、気持ちを全て伝えることができないことが悔しいです。なので、一言だけ。とても、素晴らしかったです。 (2019年12月9日 23時) (レス) id: 3d69e77dfd (このIDを非表示/違反報告)
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