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「...でも、大会当日は他の人がピストルやるんだよ?そのときに結果出せるようにしておかないと」
口を開いて、出てきたのはそんな言葉で。
言ってから、後悔した。
確かにセンラくんの言葉には動揺した、自分の心中を見透かされたようで。
ただ、動揺を誤魔化すための言葉が可愛くなさすぎた。ここで「え〜嬉しい〜♡」なんて愛想の一つでも飛ばせていたら恋心に苦心することもなかったのに。
まぁそうなんやけどな、なんて苦笑いが隣で聞こえて、遂に嫌われたかと思わず体を固くする。
「ん...あれ、でも待てよ?Aの大会の仕事って、確かタイム記録だったよな?」
唐突にそう聞かれ、頭の中で予定表を思い返して頷く。大会などでは保護者さんがお手伝いに来てくださるため、私は楽な仕事につけることが多いのだ。
「タイム記録って、確かゴール前におるんよな?」
またもや唐突に聞かれ、今度は「うん」と声に出して肯定する。と、
「えっそれめっちゃええやん!!」
いきなり隣で大声で叫ばれ、驚いて肩が軽く跳ねた。びっくりするじゃん、と彼の方を向くと、タイムが縮まったとき以来の笑顔。
場違いにもその華やかな微笑みに見蕩れながら、何でそんな嬉しそうなの、と問うた。
「え、だってAがゴール前におるんやろ?Aが俺の目的地におるんやろ?
___惚れた人がおるとこやったら、そんなん誰よりも早く行くに決まっとるやん」
まるで、センラくんの瞳のような、凛とした静寂が通った。
だけど肝心の瞳は明後日の角度で。
ただ____そこから僅かに窺える頬は、ほんのりと赤く。
「...え、センラくん、今のえっ、ちょ」
「さーて、今度こそ帰るか」
「いやさすがにそこまで馬鹿じゃないし耳悪くもないと思うんだ?!」
「...この前の社会の小テスト」
「...34点」
「おっしゃ、78。じゃあ聴力検査は?」
「...左耳はBで、右耳はC」
「俺はどっちもA。...そんじゃ、帰りましょ」
「?!?!」
いや、確かに馬鹿も難聴も証明されちゃったけどさ!!
そーゆー問題じゃなくない?!
センラくんがハイスペック過ぎるんだよ!!
なんてことを考えている間にセンラくんは腰を上げて、私が飲み干した空き缶を回収して、鞄をかついで。
まるで、本当に、帰るときみたいに。
それを見ても冗談だよね、ちゃんと言ってくれるよね、なんて笑えるほど、私は彼を知らなくって。
そんなの、嫌だ。だって、私は、
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なのなの-VII(プロフ) - 以前から気になっていたのですが、時間がなく、やっと拝見させていただくことができました。私の少ない語彙力では、気持ちを全て伝えることができないことが悔しいです。なので、一言だけ。とても、素晴らしかったです。 (2019年12月9日 23時) (レス) id: 3d69e77dfd (このIDを非表示/違反報告)
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