《完結》 Beginning ～graffiti～ (ページ5)

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Short･Short:『風』《1》 (※ 自身blogより) ページ5

春にはまだ少し早い、冷たい風が吹く海辺に、一人の女性…百合が立っていた。

百合の瞳からは、静かに…そして、とめどなく涙が溢れていた。

しばらくして…
百合は一歩一歩、海へ向かって歩き出した。

やがて…
百合が、もう少しで波に濡れるところまで来たとき…

「泳ぐには、早過ぎるんじゃない？」

百合は、突然の声に思わず足を止めた。

振り返ると、一人の青年…ユウキが立っていた。

ユウキは、ゆっくりと百合の隣へ歩いてくると、人懐っこい笑顔を見せた。

「お姉さん、すげぇ薄着だから、気になってさ。あ…変な意味じゃないよ！まだ、寒い時期なのに、風邪引いちゃうんじゃないかと思ってさ」

「…」

「あ、まさか…死んじゃおうとか、考えてんじゃないよね？」

「…そうよ」

「え…マジ？」

ユウキは、心底驚いた表情を見せた。

「なんで？」

「えっ…？」

「なんで、死んじゃおうと思ったわけ？」

ユウキは、まるで他愛のない質問をするかのように、百合にたずねた。

「好きな人が…いなくなったから」

「そっか…その人、亡くなっちゃったの？」

「…そうよ」

「そっか…」

ユウキは海を見つめたまま、大きく伸びをした。

「彼がいなくなって…何もかもが、どうでもよくなっちゃって…」

百合の瞳から、更に涙が溢れた。

「どうしていいか…分からない…」

百合は泣き崩れ、その場にしゃがみ込んでしまった。

ユウキは、少しだけその様子を見つめていたが、やがて百合の隣にしゃがみ込んだ。

そして…百合が、泣き止むまで、黙ったまま海を見つめていた。