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あの子に会いたいから、生きたくない。
あの子に申し訳ないから、幸せになりたくない。
あの子に愛されたいから、最低でありたい。
それがジンくんの答えだった。いつだったか愛の証明にはなり得ないと彼が話した行為を終えて、まだ日の昇らない暗い空を見つつ冷蔵庫を開けた私はどうしようもない、と思った。本当にどうしようもない。この状況も、彼自身も。
役立たずだと言われたのだ。彼を殺せない私には価値がないと。正直に言うなら、そこまで否定される必要があるのかと情けなくなった。散々私の事は絶対好きにならないと言ったのにジンくんはわがままだ。私に責任を押し付けて、悲観したいらしい。
自分でその結末を選ぶ勇気はないくせに、と言いたかった。そこまでしてあの子に会いたいと泣くなら自分で行けばいいのに。でも言わなかった。もし、私のせいで本当に踏み切るような真似をされては困る。それにジンくんのその弱い部分は都合がいいからだ。そして私に僅かな優越感を植え付ける。今まで彼と一緒にいた中で、はじめて自分が主導権を握った気がした。
ああ、私のせいでこの人は泣いたんだ、と。
いつだったか、海でどこかに消えてしまいそうなほど、ガラスみたいに薄くて綺麗だった横顔を思い起こす。今の彼はどうだろう。足元に広がる影に掴まれてもがいて、何かに囚われてどこにもいけない。そんな姿が頭に浮かんだ。そう簡単にこの人は離れていかないだろうとなぜか確信が持てた。
大きいペットボトルから水をグラスに注いで、口をつけながら水槽の前に立つ。この狭い世界しか知らないだろうに、熱帯魚たちの方が私たちより自由にどこかに行けてしまいそうだ。ゆらゆら揺れているだけなのに美しいことを知っているのだろうか。
実は少し前に数匹が病気にかかっていたのだ。ジンくんが水槽を覗き込んで、体に白い斑点がある、と言ったのがきっかけで気づくこととなった。2人で調べてみるとそこまで大きな病気というわけでもなく、早めに対処すれば問題ないとのことだったので、水温を変えたり薬を入れてみたりと色々試したところ、数週間ですっかり元通りになった。
あの時は素直に喜んでいたが今となっては別の感情が芽生える。こうやって手間をかければ治るのが羨ましい、と。
きっと私たちはもう、なおらない。
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せぼね(プロフ) - ?さん» 遅くなってしまいすみません。負け犬の胎動とはがらっと変わった雰囲気だった上に、彼をメインで書く作品は今まであまりなかったのでそう思っていただけて嬉しいです。次のお話も楽しんでいただけるものになればと思っています。 (2021年10月7日 11時) (
レス) id: 315a39932b (このIDを非表示/違反報告)
せぼね(プロフ) - 万さん» 遅くなってしまいすみません。最後までお付き合いいただきありがとうございました。読んでくださる方の解釈で楽しんでいただける作品になっていれば幸いです。 (2021年10月7日 11時) (レス) id: 315a39932b (このIDを非表示/違反報告)
?(プロフ) - 初めまして、完結おめでとうございます！負け犬の胎動から読ませて頂いておりますが、こんなにハラハラする作品は初めてです。ジンペンなだけにずっとドキドキしながら読ませて頂きました、とても面白かったです…！！次回作お待ちしております。 (2021年9月10日 1時) (レス) id: c8e6d9d1ad (このIDを非表示/違反報告)
万(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで楽しく読ませていただきました！色々解釈をしてもう一度読み直したいと思います。次回作も楽しみにしております。 (2021年9月9日 14時) (レス) id: cc237cd121 (このIDを非表示/違反報告)
せぼね(プロフ) - カナタさん» こちらでもコメントしてくださりありがとうございます。そう言って頂けて良かったです…！もうそろそろ完結が近づいていますので、最後までお付き合いいただければと思います。 (2021年9月8日 23時) (レス) id: 315a39932b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：せぼね
| 作成日時：2021年8月14日 3時
