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私のものにしたい。
とは言えなかった。さすがにそれを抑えるだけの理性は持ち合わせていたことに少しほっとした。彼と目線を合わせるようにしゃがみながら考える。私はジンくんをどうしたいのだろう。わたしのものにして、その先には何があるのか。思ったよりもすぐに答えは出てきた。そして我ながら呆れた。
あの子よりジンくんのことを幸せにしたい。
幸せになって欲しい、って一見相手を思うようでどこまでもエゴでしかないのだ。何をもって彼が幸せであるか定めて、押し付けているのは私なのだから。それを自己満足と呼ばずして何とするのか。
「私はジンくんに」
でもまだ「良い人」じゃないといけないから、また言葉を削った。主語は私じゃなくて彼である。
「ジンくんに幸せになってほしい」
小さく息を呑むのが分かった。彼は何度も何かを言おうとして唇が開かれるのに、僅かに息が漏れるだけだ。ひどく緩慢な沈黙がリビングを包んで、指輪が照明を受けて瞬く。
長い長い、空白だった。ようやく彼が喋るまで、私はまた夜ご飯のことを考えるほどに思考を遠くへ伸ばしていた。
「……じゃあ俺を」
彼は私の胸ぐらを掴んだかと思えばそのまま揺さぶる。
「俺を殺してくれよ！殺してみせろよ！」
殺してみせろよ。頭の中で、わんわんとそれが何重にも重なって響いた。望むものは、幸せは、それだというのか。私が今まで彼のために、生きてもらうためにしてきたことは無駄だったと言いたいのか。なんだそれ、と怒りと情けなさの混じった落胆を抱く。
ジンくんは泣いていた。私も、泣いていた。しばらくお互いぼろぼろと涙を流したまま向き合っていた。多分、ジンくんと私の涙の意味は違う。それでも感情に抑えが効かなくなっているのは同じなのだと、こんな時だというのに少し嬉しくなってしまった。そんな自分が気持ち悪い。
彼は言葉を詰まらせると、私の胸の辺りに額をとんとぶつける。絞り出すような声で「頼むから」と嗚咽に引っ掛けた懇願をこぼした。
こんなにも近くに彼の体温があるのに、抱きしめることができなかった。だって抱きしめたって殺せない。
「ジンくんのこと殺せないよ」
「……役立たず」
代わりにその頬に手を添えた。
「ジンくん」
私からキスをしたのは、きっとこれが初めてだった。私も同じことを言ってみたい。ジンくんは私のことをどうしたいの？
あるいは、私のことをどうにかしてよ。と。
「でも、好きだよ」
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せぼね(プロフ) - ?さん» 遅くなってしまいすみません。負け犬の胎動とはがらっと変わった雰囲気だった上に、彼をメインで書く作品は今まであまりなかったのでそう思っていただけて嬉しいです。次のお話も楽しんでいただけるものになればと思っています。 (2021年10月7日 11時) (
レス) id: 315a39932b (このIDを非表示/違反報告)
せぼね(プロフ) - 万さん» 遅くなってしまいすみません。最後までお付き合いいただきありがとうございました。読んでくださる方の解釈で楽しんでいただける作品になっていれば幸いです。 (2021年10月7日 11時) (レス) id: 315a39932b (このIDを非表示/違反報告)
?(プロフ) - 初めまして、完結おめでとうございます！負け犬の胎動から読ませて頂いておりますが、こんなにハラハラする作品は初めてです。ジンペンなだけにずっとドキドキしながら読ませて頂きました、とても面白かったです…！！次回作お待ちしております。 (2021年9月10日 1時) (レス) id: c8e6d9d1ad (このIDを非表示/違反報告)
万(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで楽しく読ませていただきました！色々解釈をしてもう一度読み直したいと思います。次回作も楽しみにしております。 (2021年9月9日 14時) (レス) id: cc237cd121 (このIDを非表示/違反報告)
せぼね(プロフ) - カナタさん» こちらでもコメントしてくださりありがとうございます。そう言って頂けて良かったです…！もうそろそろ完結が近づいていますので、最後までお付き合いいただければと思います。 (2021年9月8日 23時) (レス) id: 315a39932b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：せぼね
| 作成日時：2021年8月14日 3時
