20 ページ20
.
ジンくんの隣を歩くのは楽しかった。でも同じぐらい不安でもあった。いつも彼の隣にいたあの子の代わりに私がいる。彼女の役目を奪ってしまった気がしてしまう。まるであの子をぺしゃんこに踏み潰して、その上に立っているかのような。だから時折、そんなことはありえないと分かっていても、あの大人しくも意志の強い目でこちらを見上げてはいないだろうかと自分の足元を確かめてしまう。 結局それは、彼の薬指にしか留まっていないけれど。
相変わらず予定を立てようと持ちかけるのは私ばかりだった。それでも、彼は出会った頃に比べればずいぶんと纏う雰囲気が穏やかになったと思う。喜ばしいことではあるが、それとは別に問題が出てきた。
彼の家に泊まることが極端に減ったのである。私の意志ではない、それなりの時間になれば無言で車のキーを取って、それじゃあみたいな顔をするのだ。今までも別に泊まることが義務だったわけではないし、私自身が泊まる頻度に何か言及したこともなかった。だから理由を尋ねるのはなんだかはばかられて、特に気にしていない素振りで助手席に乗り込むことしかできない。
それから料理も、負担だろうからもう作らなくていいと言われてしまった。
となると家を訪れる名目が何も残っていない。別に私のことを嫌いになったというわけではなさそうなのだ。楽しげな様子を見せることも増えてきた。やっぱり彼はあの子を喪った一時の悲しみを誤魔化すためにこうやって私と会っていたのだろうか。立ち直れているなら喜ばしいのだが、ジンくんが辛そうだからという建前がばらばらと崩れて、再び再会したあの時の濁った気持ちが膨れていく。
ダメだ。私はこの人を手離したくない。
結局ジンくんの1番はあの子だけで、関係性に名前をつけることも、最下位から抜け出すこともなくただ「良い人」として終わるのはあまりにも悔しかった。自分が「好き」とそれに伴う執着だけで生きていたことを久しぶりに思い出す。
そんなある日、私は初めてジンくんから誘われたのだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 985人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「BTS」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
せぼね(プロフ) - ?さん» 遅くなってしまいすみません。負け犬の胎動とはがらっと変わった雰囲気だった上に、彼をメインで書く作品は今まであまりなかったのでそう思っていただけて嬉しいです。次のお話も楽しんでいただけるものになればと思っています。 (2021年10月7日 11時) (
レス) id: 315a39932b (このIDを非表示/違反報告)
せぼね(プロフ) - 万さん» 遅くなってしまいすみません。最後までお付き合いいただきありがとうございました。読んでくださる方の解釈で楽しんでいただける作品になっていれば幸いです。 (2021年10月7日 11時) (レス) id: 315a39932b (このIDを非表示/違反報告)
?(プロフ) - 初めまして、完結おめでとうございます！負け犬の胎動から読ませて頂いておりますが、こんなにハラハラする作品は初めてです。ジンペンなだけにずっとドキドキしながら読ませて頂きました、とても面白かったです…！！次回作お待ちしております。 (2021年9月10日 1時) (レス) id: c8e6d9d1ad (このIDを非表示/違反報告)
万(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで楽しく読ませていただきました！色々解釈をしてもう一度読み直したいと思います。次回作も楽しみにしております。 (2021年9月9日 14時) (レス) id: cc237cd121 (このIDを非表示/違反報告)
せぼね(プロフ) - カナタさん» こちらでもコメントしてくださりありがとうございます。そう言って頂けて良かったです…！もうそろそろ完結が近づいていますので、最後までお付き合いいただければと思います。 (2021年9月8日 23時) (レス) id: 315a39932b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：せぼね
| 作成日時：2021年8月14日 3時
