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あんな食生活なのだ。外食は気乗りしないだろうと思い、数ヶ月経ってから彼に会う場所として残ったのは結局家だけだった。思えば私にお礼として最初に誘ってくれたレストランも結構彼にとっては苦痛だったのかもしれない。
家に行ったからといって私にできることと言えば、料理を作って、泊まっていけばと言われたら大人しく泊まるぐらいだったが。会社を出て彼の家に向かうまでにスーパーに寄って適当に食材を買うのがいつものことだった。
空っぽに近かった冷蔵庫には徐々に色々なものが増えていく。たまに作り置きを残していけば、次に会う頃にはタッパーは綺麗に洗って水切りかごの中に置かれていた。最初に訪れた頃のゴミ箱を思い出して、手をつけずにこっそり捨てているのだろうかと考えもしたが、一応それなりに感想が返ってくるので違うらしい。
ジンくんにとってはただ料理を作って、自分がその気なら朝まで家にいさせて、程度の認識なのだろう。でも私はどうしてもこれが、あの子とジンくんが過ごした、あるいは過ごすべきだった日々をなぞっているようにしか思えなかった。恋人の真似事みたいに。でもそこに1番あるべき愛だけが介在しない。
私はどれだけ望んだってあの子の代わりにはなれない。代わりにもなれないし、彼女の存在を上書きできるような望みもない。
それでも、出かかった欲というのはなかなか収まってくれないのだ。高校生の時は彼と言葉を交わすだけでも嬉しかった。満たされていた。例え「あの子のもの」であったとしても。それが今ではこんな風に時間を過ごせるまでになってしまったのだ。思ったほど彼は完璧でも優しくもなかったが。逆にそのフィルターが外れてしまったせいでもっと近づきたくなる。
「ジンくんって普段どこか出かけたりしてるの？」
「会社ぐらい」
「会社は出かけるうちに入らないよ……」
いつものようにテーブルを挟んだジンくんは、ビールをグラスに注ぎながらうーんと唸った。
「じゃあ出かけないな」
「退屈じゃないの」
「退屈だけど。俺は退屈じゃないとだめだから」
「どういう意味」
「言ってもAさんには分からないよ」
とん。と穏やかに心の奥を突かれるみたいに引き離された。思わず箸を持つ手が止まってしまう。しかしあっちは気に止める様子もなく黙々と食べ進めて、そのうちに「ごちそうさま」と腰を上げた。
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せぼね(プロフ) - ?さん» 遅くなってしまいすみません。負け犬の胎動とはがらっと変わった雰囲気だった上に、彼をメインで書く作品は今まであまりなかったのでそう思っていただけて嬉しいです。次のお話も楽しんでいただけるものになればと思っています。 (2021年10月7日 11時) (
レス) id: 315a39932b (このIDを非表示/違反報告)
せぼね(プロフ) - 万さん» 遅くなってしまいすみません。最後までお付き合いいただきありがとうございました。読んでくださる方の解釈で楽しんでいただける作品になっていれば幸いです。 (2021年10月7日 11時) (レス) id: 315a39932b (このIDを非表示/違反報告)
?(プロフ) - 初めまして、完結おめでとうございます！負け犬の胎動から読ませて頂いておりますが、こんなにハラハラする作品は初めてです。ジンペンなだけにずっとドキドキしながら読ませて頂きました、とても面白かったです…！！次回作お待ちしております。 (2021年9月10日 1時) (レス) id: c8e6d9d1ad (このIDを非表示/違反報告)
万(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで楽しく読ませていただきました！色々解釈をしてもう一度読み直したいと思います。次回作も楽しみにしております。 (2021年9月9日 14時) (レス) id: cc237cd121 (このIDを非表示/違反報告)
せぼね(プロフ) - カナタさん» こちらでもコメントしてくださりありがとうございます。そう言って頂けて良かったです…！もうそろそろ完結が近づいていますので、最後までお付き合いいただければと思います。 (2021年9月8日 23時) (レス) id: 315a39932b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：せぼね
| 作成日時：2021年8月14日 3時
