#29 ページ29
『俺たちには、君が必要なんだよね〜』
いつの日か、ヴァンテの口から聞いた事のある言葉だった。
アイツ、極悪非道の悪人のクセに変な優しさを見せるんだ。どうせ汚い金のためだと、情が湧かないように心がけていた。
だけど、長時間アイツと同じ時間を過ごして頭がおかしくなっちゃった。
ほんの少しだけ、本当は優しい人なんじゃないかって思い始めた。
彼は約束通り、言う事を聞けば何もしてこなかった。スングァンにだって、ゲームを与えてご飯も食べさせてくれた。
心の底からアイツらが嫌いなのに、ほんの少しだけここから出してくれる日が来るんじゃないかって。
……今回だって、わたしがヴァンテの言う事を聞いていれば、弟は酷い目に遭わずに済んだ。
わたしのせいなんだ。全部、何もかも。
「お願い……行かせて……」
本当最悪な日。嫌な事を思い出して、涙を流すとか。
どうせ女で泣けば済むと思っているとか、思っているんでしょ。
仕方ないじゃん。こんな地の底よりももっと深くまで堕ちた人間に、同情なんてしてくれない。
ずっとそこで這いずり回って、必死な思いで小さな光を見つける事しかできない。
「弟……スングァンは、俺たちが保護した」
嘘だ。大人はすぐ嘘をついて、騙す。
「信じない……」
「姉ちゃんを助けてくれって、通報が入ったんだよ」
目を大きく見開き、ジフンを見た。
卑怯だ。弟の事を使ってまで、わたしをここに留めようとしているんだ。
「嘘ばっかり……」
警察は嘘をつく。それならまだ、ヴァンテたちの事を信用した方がいい。
「真実を確かめたきゃ、ついて来い」
彼はわたしに背を向けると、どこかへと歩いて行く。
今わたしが反対の方へ駆け出したら、彼は追いかけてくるだろう。
コイツだって、それも視野に入れているはずだ。
なのに、振り返らない。
「……わたしを、信用するって言いたいの」
彼の背にそう呟いた。
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菜々子(プロフ) - 蜜柑さん» コメントありがとうございます！！更新頑張ります！！ (2020年8月9日 21時) (
レス) id: 276cf1906f (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - わー、このお話ドタイプです、、、続き楽しみにしております！ (2020年8月9日 21時) (レス) id: fc1cb3405c (このIDを非表示/違反報告)
菜々子(プロフ) - yuiyui160120さん» コメントありがとうございます！更新頑張ります！ (2020年8月9日 15時) (レス) id: 276cf1906f (このIDを非表示/違反報告)
yuiyui160120(プロフ) - とても面白くて続きが気になります！更新楽しみにしています！ (2020年8月9日 15時) (レス) id: e8590fba58 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：菜々子
| 作成日時：2020年8月7日 17時
