#38ジョンハン ページ38
「俺は契約しない」
はっきりと断った。
まさか俺が断ってくるとは思っていなかったのか、シャドウは少し驚いた顔をしたが、ニヤリと片方の口角をあげる。
「そうか。非常に残念だ。お前が死ぬのは惜しい……」
今の俺には守ってもらえる存在はいない。
こんな風に死んでしまうなら、Aと仲直りしておけばよかったかな。
結局、俺はアイツのことを理解してやれなくて……逃げたんだ。
自分が助かりたいからとかどうでもいい。
一度でいいからまた、家族で……。
「うっ……！」
その時、目の前にいるシャドウが小さなうめき声をあげた。
彼の腹の中心から伸びる刃。
そして、彼の体から砂のように抜け落ちていくシャドウ。
倒れた彼の後ろから現れたのは、Aだった。
薄暗い中でも分かる。彼女は頭から血を流していた。
どうやら、コイツの他にシャドウがいたらしい。
「なんで……」
「仕事……ですから……」
彼女が小さくそう言った瞬間、Aは前へと倒れていく。
俺は慌てて彼女を受け止めた。
「少し寝てれば治るよ」
Aをベッドに寝かせ、診察をしてくれたジョシュアさん。
病院に連れていく訳にもいかず、俺は彼を頼っていた。
どうやら妹は、頭に多少打撃を受けたらしいが、大事に至らず休息をとれば治るそう。
彼によると、Aは治癒力が高い代わりにスタミナの消耗が激しいらしく、短期戦で決着をつけないと倒れてしまうそうだ。
だから初めて会ったとき、すぐ骨折が治ったんだな。
「テヒョンさんも無事だよ。彼はシャドウに憑かれてたから数日は眠ったままだろうけどね」
彼女の隣に寝ているのは、テヒョン。
目が覚めてから、コイツには色々と訊かなければならないことがある。
「……ようやく、僕たちの戦いも終わりかもね」
「え……？」
「実はね。Aがとてつもなく強力なシャドウの気配を感じていたんだ。きっと、彼に憑いていたのがそうだった」
「じゃあ……Aは帰れるんですか？」
「本人が望めばね。まあ、まだ分からないからなんとも言えないけど、サポートはさせてもらうつもり」
もしそうだとしたら……あとは本人次第ってことか。
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作者名：菜々子
| 作成日時：2022年11月22日 19時
